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2011年 8月3日の新作昔話

鐘を鳴らした山鳥

鐘を鳴らした山鳥
山形県の怖い話

 むかしむかし、ある山小屋に、一人の木こりが住んでいました。

 ある日の事、木こりが山を登っていると、山鳥がけたたましい声で騒いでいました。
 木こりが鳴き声のする方を見上げてみると、岩の上にある山鳥の巣の中に二羽のヒナがいて、何かにおびえている様子です。
「何事だ?」
 よく見ると巣の下から、大きなヘビがせまっていたのです。
「こら、しっ、しっ」
 木こりは木の棒で、そのヘビを追い払ってやりました。

 さて、それから何年かたったある日、木こりが用事で山道を歩いていると、まだ昼前なのに急にあたりが真夜中のように暗くなって、何も見えなくなってしまったのです。
「これは、どうした事だ?」
 木こりが困っていると、木々の向こうに家の明かりが見えました。
「助かった。とにかく、あの家に行ってみよう」
 木こりはその家にたどり着くと、家の戸を叩いて言いました。
「もしもし、急に日が暮れて困っています。どうか、中に入れてください」
 すると中から、美しい女の人が出て来ました。
「やっと会えたねえ。お前が来るの、ずっと待っていたんだよ」
(待っていた? 変な事をいう女だ)
 木こりは不思議に思いましたが、とにかく家の中に入れてもらいました。

 家はとても立派な造りですが、不思議なことに人が住んでいる様子はありません。
「お前さん、こんな山中の家に、一人で住んでいるのか?」
 木こりが尋ねると、女は後ろ手で戸をピシャリと閉めながら、
「この家は、お前をおびきよせるワナだ」
と、太い声で言ったのです。
 その声は、先ほどの女の人の声ではありません。
「おっ、お前さんは・・・」
 木こりがびっくりして言うと、女の人の肌にうろこが浮かんできて、見る見るうちにヘビの顔になったのです。
「ヘ、ヘビ女!」
 木こりは逃げ出そうとしましたが、そのとたんに氷のような冷たい手で襟首(えりくび)をつかまれて、逃げるどころか動く事も出来ません。
 ヘビ女は木こりに不気味な顔を近づけると、こう言ったのです。
「わたしは数年前、お前に食事の邪魔をされたヘビだ。あの時のうらみを、ここではらしてくれよう」
 それを聞いた木こりは、山鳥のヒナを助けるために追い払ったヘビの事を思い出しました。
(くそー! こんな事なら、あの時にヘビを殺しておけばよかった)
 木こりは気持ちを落ち着かせると、ヘビ女にこう言いました。
「待て!
 おれには、山の神さまがついているんだぞ。
 もしおれに手を出すと、お前は後でひどい目に会うぞ」
 山の神がついているなんて全くのでたらめですが、それを聞いたヘビ女の動きがピタリと止まりました。
「山の神?
 ・・・ふん、なら、ためしてやろう。
 お前はこの近くに、人のいない山寺があるのを知っているだろう。
 本当に山の神がついていると言うなら、その山の神に頼んで、夜中までに山寺の鐘を二つ鳴らしてみろ。
 もし鐘が鳴ったら、お前の命は助けてやろう。
 だが鳴らなかったら、お前を頭から食ってやるからな」
 ヘビ女はそう言うと、長い舌でペロリと舌なめずりをしました。

 時間がどんどん過ぎて、とうとう夜中になりました。
 ヘビ女は、ニヤリと笑って木こりに言いました。
「さあ、約束の夜中になったが、鐘は鳴らなかったな。
 山の神がついているなどと、うそを言いやがって。
 約束通り、お前を頭から食べてやるぞ」
 ヘビ女が大きな口を開けたその時、
♪ゴーーン
♪ゴーーン
と、人がいないはずの山寺の鐘が、二つ鳴ったのです。
 それを聞いたヘビ女は、いまいましそうに舌打ちをすると、
「ちっ! 本当に、山の神がついていたのか」
と、そのままどこかへ消えてしまいました。
「たっ、助かった。・・・しかし、誰が鐘を鳴らしたのだろう?」

 やがて夜が明けたので、木こりは山寺に行ってみました。
「もーし、誰かいますかー?」
 木こりが声をかけましたが、やはり山寺には誰もいません。
 そこで木こりが鐘つき堂へ行ってみると、何と釣鐘の下で、血だらけの山鳥が二羽、並んで死んでいたのです。
 その山鳥は、木こりがヘビから助けてやった山鳥でした。
「そうか、お前たちが鐘を」
 山鳥は命の恩人を助ける為に、自分を勢いよく鐘に打ち付けて鐘を鳴らしたのでした。

おしまい

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