2011年 8月8日の新作昔話
退治された雪女
宮城県の怖い話
むかしむかし、ある雪の降る夜、若い侍が町の見まわりに行くと、道ばたに赤ちゃんを抱いた女の人が立っていました。
不思議に思った侍は、その女の人に声をかけました。
「そこの女。こんな時間、こんな所で何をしておる?」
すると女の人が、侍のそばへやって来て言いました。
「はい、実は大切な物を、雪の中に落としてしまいました。あの、探してくる間、この子を抱いていては下さいませんか」
女の人はそう言うと、赤ちゃんを侍に渡して雪の中に消えてしまいました。
侍は雪の中でじっと待ちましたが、女の人はいつまでたっても戻ってきません。
(おそいな。・・・おや?)
不思議なことに、抱いている赤ちゃんがどんどん重くなってきて、さらに氷のように冷たいのです。
(これは、どうした事だ?)
気味が悪くなった侍は赤ちゃんをはなそうとしましたが、なぜか体が動かず、声を出す事も出来ません。
寒さにこごえた侍は、そのまま倒れてしまいました。
やがて、いつまでも帰って来ない侍を心配した仲間が探しに来てみると、侍は大きなつららを抱いたまま気を失っていたのです。
それから数日後の夜、夜まわりのおじいさんが、ひょうし木を叩きながら、
「火の用心!」
と、歩いていると、根元が雪に埋まった松の木のところに女の人が座っていて、長い髪の毛をくしでとかしていました。
不思議に思ったおじいさんが、女の人に声をかけました。
「お前さん。こんな夜中に、どうしたというのじゃ?」
そのとたん、女の人が顔をあげました。
なんとその顔は、目も鼻もないのっぺらぼうだったのです。
「ヒェーーッ!」
驚いたおじいさんは、雪の中をはうようにして逃げました。
そして家に戻っても体の震えが止まらず、おじいさんはそのまま熱を出して寝込んでしまいました。
さあ、この侍とおじいさんの話しが町に広まると、
「その女はきっと、雪女に違いない」
と、言って、町の人たちは日が暮れると誰も外へ出なくなりました。
そこでとうとう、腕自慢のご家老が自分で雪女退治に出かけたのです。
「たかが雪女を怖がるとは、なさけない」
ご家老は毎日のように町中を見回りますが、雪女はなかなか姿を現しません。
「雪女というくらいだから、雪が好きに違いあるまい。さいわいにも、今夜は雪だ。今夜こそ現れるであろう」
ご家老は暗くなるのを待って、屋敷を出ました。
そして町を一周して、再び屋敷の近くまで戻ってきた時です。
ふと前を見ると小さな小坊主が、ぴょんぴょんとはねるような足取りで歩いています。
「これ、それで何をしておる?」
ご家老が声をかけると小坊主はさっと駆け出して、少しして立ち止まると、
(はやく、捕まえに来い)
と、ばかりに、後ろを振り返ります。
「馬鹿にしおって!」
ご家老は立ち止まると見せかけて、いきなり小坊主の肩をつかみました。
すると小坊主の体がどんどん大きくなっていき、ご家老と同じぐらいの大きさになったのです。
「なんと!」
ご家老が驚いて手を放すと、小坊主のさらに大きくなって、ついに家よりも大きくなりました。
「おのれ! 武士をぐろうするとは、許さん!」
ご家老は腰の刀を抜くと、小坊主めがけて切りつけました。
「うぎゃーー!」
小坊主は鋭い悲鳴とともに氷のように砕け散り、そのまま消えてしまいました。
刀をおさめたご家老が、首をひねりました。
「まさか、これが雪女とは思えぬが」
しかしそれっきり、雪女は現れなかったそうです。
おしまい
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