きょうの新作昔話
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2011年 12月7日の新作昔話

白くまとのたたかい

ほら吹き男爵 白くまとのたたかい
ビュルガーの童話

 わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
 みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日も、わがはいの冒険話を聞かせてやろう。

 きみたちは、キャプテン・フィップスの有名な北海探検旅行の話しを、知っておるかな?
 実はその時、わがはいもフィップスのお供をしたのだ。
 えっ? 初耳だって。
 それは、そうだろう。
 その時のわがはいの活躍ぶりを話すと、肝心のフィップスの影が薄くなるので、奥ゆかしいわがはいは今まで誰にも話さなかったのだから。

 さて、わがはいたちの探検船は、北海を北へ北へと進んだ。
 わがはいは船の船先に立ち、望遠鏡を目にあてて、たえず前方をにらんでいた。
 氷山にでもぶつかったら、このちっぽけな探検船などひとたまりもないからな。
 するとまもなく船の行く手に、わがはいたちの船のマストの数倍も高い大氷山が浮かんでいるのを発見した。
「おーい、氷山だぞ。気をつけろ!」
 わがはいは運転士に注意を与えたが、その時、氷山の上で何か白い物がもつれあっているのに気がついた。
「おや? あれは、何だろう?」
 望遠鏡のピントを合わせると、大きな白クマがすもうをして遊んでいるではないか。
「船長。あの白クマを捕まえに、ちょいと行ってきます」
 わがはいはフィップス船長にことわって、鉄砲を片手にボートに乗り移り、氷山めがけてこぎ出した。
 ところが、それはちょっとどころではなかった。
 望遠鏡でのぞいた時には、ほんの近くに見えた氷山だが、いざボートをこぎ出してみると、これがなかなかに遠かったのだ。
 そしてやっと到着して登りはじめて見ると、氷山は鏡の様につるつるしていて、二歩登っては一歩すべり、三歩登っては二歩すべるといった調子で、やっと氷山の上にたどり着いた時は、さすがのわがはいもへとへとにくたびれ果てた。
 だが白クマたちの姿を見ると、わがはいの疲れはいっぺんに吹き飛んだ。
 なんと美しく、なんと暖かそうな毛皮だろう。
「よし、わがはいのコートも古くなったし、こいつらの毛皮をはいで新品を作ろう。わがはいが一着、フィップス船長が一着、そして肉はクマ汁にして今晩のごちそうだ」
 わがはいは、わくわくしながら白クマたちに鉄砲の狙いを定めた。
 そして引き金を引こうとした瞬間、わがはいはつるりと足をすべらせると、固い氷に頭をぶつけて気を失ってしまったのだ。
 ああ、わがはいとした事が、何たる不覚。
 やがて、
 ウォーッ!
 ウォーッ!
と、ものすごいうなり声に気がつくと、わがはいのすぐ目の前で、さっきまで仲よく遊んでいた二匹の白クマが取っ組み合いの大げんかを始めたのだ。
 そのうちに一方が相手を地面にたたきつけると、負けた方は悲しげな顔をして向こうへ行ってしまった。
 そして勝った方のクマは、まだ頭がぼーっとしているわがはいに近よってきたと思うと、わがはいの肩に足をかけてコートを脱がそうとするではないか。
 わがはいは、やっとさっきのけんかの理由がわかった。
 勝った方が、わがはいのコートをもらう事になっていたのだ。
 冗談じゃない。
 やつらの毛皮でコートを作ろうと思って来たのに、反対に、こっちのコートを取られてたまるものか。
 わがはいはとっさにポケットからナイフを取り出すと、白クマのやわらかい足の裏の肉を切り取ってやった。
 この攻撃には、白クマもびっくり。
 ウォーッ!
 恐ろしいうなり声をたてて、白クマは逃げ出した。
 こうなれば、もうこっちのものだ。
 わがはいは、素早く鉄砲を拾うと、
 ズドーン!
と、おみまいした。
 そして鉄砲の玉は見事に命中して、白クマは地ひびきたてて倒れた。
「うまくいったぞ」
 わがはいは思わず小おどりをしたが、まさか、わがはいの一発の銃声が何百という白クマを呼んでしまうとは思わなかった。
「なんと! 白クマはこんなにもいたのか?!」
 白クマたちは、わがはいを見つけると、
(なまいきな、人間め)
(仲間のかたきを、うて)
と、ばかりに、四方八方から襲いかかってきたのである。
「しまった!」
 これだけの数だと鉄砲の玉も足りず、このままではコートを取られるどころか、白クマのえじきになってしまう。
 絶体絶命とは、この事だ。

 さて、これからわがはいの活躍が始まるのだが、もう遅いので続きはまた今度にしよう。
 今日の教訓は、『氷山の上で白クマ狩りをする時は、その数に注意しよう』だ。
 白クマがなぜ白いかと言うと、雪や氷の上で自分の姿を見えにくくするためだ。
 保護色というやつじゃな。
 これを忘れていたわがはいは、これから何百頭もの白クマを相手にしなければならないのだ。
 きみたちも、氷山の白クマには注意するように。

おしまい

  わがはいは、ミュンヒハウゼン男爵(だんしゃく)。
 みんなからは、『ほらふき男爵』とよばれておる。
 今日は、氷山での白クマ退治の続きを聞かせてやろう。

 氷山の上には何百頭もの白クマがいたが、白クマが氷山と同じ色だったので、それに気づかず、わがはいは何百頭もの白クマに囲まれてしまった。
「えーい、こうなったら最後の手段だ」
 わがはいは、すでに仕留めた白クマの毛皮をナイフではいで、その中に身を隠した。
 つまり、白クマに化けたのだ。
 そして、そこへ押し寄せてきた白クマの大群に向かって、
 ウォーッ!
と、吠えてみせた。
 すると白クマたちは、
(なんだ、お前、死んだんじゃなかったのか)
と、けげんな顔をすると、疑い深く、においをかいできた。
 さすがのわがはいも、その時は生きた気がしなかったぞ。
 でもやがて、親分らしい白クマが、
(まあ、無事でよかった)
と、いうように肩を叩くと、仲間が助かったお祝いなのか、その場ですもう大会を始めたのだ。
 白クマたちは、あちこちですもうをはじめ、やがてわがはいにも一匹の白クマが、
(さあ、こい)
と、ばかりに両手を広げたのだ。
 いくらわがはいが怪力でも、白クマ相手にすもうは遠慮したい。
 その時、わがはいの頭に、ある探検家の言葉がよみがえった。
『クマに襲われた時は、クマの首の根元をナイフで突き刺すといい。首すじが、やつらの急所だから』
(ようし、試してやろう)
 わがはいは、その白クマに組みつくと見せて、隠し持った右手のナイフを首の根元を突き刺した。
 すると白クマは、あっけなく倒れた。
 もちろん死んだわけだが、そんな事は知らない白クマたちは、手を、いや、足をたたいてわがはいの勝利を祝福すると、
(じゃ、次はおれが相手だ)
と、次から次へとわがはいに向かってきた。
 その度に、わがはいはやつらの首の根元をナイフで突き刺して、ころりころりと一匹残らずしとめたのである。

 さて、足の踏み場もないような白クマの死体を乗りこえてボートに戻ったわがはいは、待機していた探検船にこぎつけて再び氷山に引き返すと、乗組員を総動員して白クマの皮と肉を船に運び込んだ。
 その夜、わがはいは乗組員たちに白クマ汁をふるまって、おおいに喜ばれた。
 ところが、問題は白クマの毛皮の処分だった。
 わがはいは、
「まずは、船長であるあなたからどうぞ」
と、フィップス船長に敬意を表して、一番上等なのを選ばせると、
「あとは、わがはいをはじめ乗組員が一着ずつ選び、残りはイギリスで売って山分けにしましょう」
と、言った。
 これこそ、誰からも文句が出ない方法だと思ったのに、
「それは困る」
と、けちなフィップスは、たちまち不愉快そうに言ったのだ。
「確かにこの獲物は、きみの力によるものだ。しかしそれも、わしの探検船があればこそ出来た事だ。毛皮の処分は、全て船長たるわしにまかせてもらいたい」
 そしてそれどころか、
「全く、こんなに重たい獲物を積んでは、船が沈没するかもしれん。やれやれ、これはとんだ災難だ」
と、ぐちをこぼしたのだ。
 災難と言うのなら、毛皮を海へ捨てれば良い。
 フィップスは、まるでわがはいが悪い事をしたかのようにぼやいて、そのままイギリスに引き返したのだ。
 そして白クマの毛皮は、あちこちの王室ヘプレゼントして、探検家としての自分の株を大いにあげたのだ。
 そしてこれは後で聞いた事だが、フィップス船長は、
「ミュンヒハウゼンくんは、白クマの皮をかぶって白クマをだまそうとして失敗したが、わしはそのまま白クマの群れに入っていき、自分を白クマだと思わせる事に成功したんだ」
と、いばったそうだ。
 この話を聞いて、わがはいは思わず吹き出した。
 それはつまり、フィップス船長の顔が白クマそっくりだという事を、自分で証明したことになるではないか。

 まあ、そんなわけで、どんな北海探検史の白クマ退治のページを開いても、わがはいの名前はのっていない。

 でも、それはそれで構わない。
 少なくとも、きみたちはわがはいの活躍を知っているし、わがはいのこの奥ゆかしさが、いずれ美談として語られるのだから。
 今日はこの奥ゆかしさを、教訓にしておこう。

 では、また次の機会に、別の話をしてやろうな。

おしまい

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