9月1日の世界の昔話
イラスト myi
冒険したリス
ハドソンの童話
夏の終り、ある森にリスが住んでいました。
リスはせっせとドングリを集めて、カシの木のすみかに運んでいました。
その様子を見ていた小鳥が、リスに声をかけました。
「やあ、リス君。さっきから何をしてるんだい?」
「こんにちは、小鳥さん。ぼくは、冬ごもりの支度(したく)をしているのさ。冬は食べ物がないからね」
いそがしそうに答えるリスに、小鳥は笑いました。
「アハハハハ。そんな事をしなくても、冬が来る前に南の国へ行けばいいのに。南の国は木の実も果物もどっさりあって、食べる物に不自由しないよ」
「へえ! その南の国って、どこにあるんだい?」
「南の国はね、あの山の向こうだよ。まあ、二週間もあれば大丈夫」
「あの山の向こうかあ。それでさ・・・」
リスがもっと聞こうとすると、めんどくさくなった小鳥はバタバタと飛んで行ってしまいました。
リスはボンヤリと、遠い山をながめました。
「寒い冬を、あたたかく過ごせたらいいだろうなあ。木の実も果物も、どっさりだって。・・・いいなあ」
リスは自分も、南の国へ行きたくなりました。
やがて秋が来ましたが、リスはドングリを集めるのも、あたたかい寝床(ねどこ)を作るのもやめて、毎日南の国で暮らす事ばかり考えていました。
そうして、カシの木がすっかり葉っぱを落としてしまうと、
「南の国へ行こう!」
と、本当に南へと出発(しゅっぱつ)したのです。
リスは森を抜け、走って走って山のふもとにたどり着きました。
もう夕方で、足はクタクタにくたびれました。
「今夜中に山のてっぺんにのぼって、南の国に『おはよう』のあいさつをするんだ!」
リスはそう言って自分をはげますと、一歩ずつ山をのぼって行きました。
けれども足が痛い上に、お腹もペコペコです。
おまけに夜風が、こおりそうな寒さです。
「ああ、もう、だめだ・・・」
リスは大きな石を見つけて、そのかげで丸くなりました。
そしてため息をついたとたん、気がつきました。
「そうか、小鳥たちは空を飛べるから、くたびれないで南の国へ行けるんだ」
その時です。
リスは背中に、ナイフでさされたような痛みをおぼえました。
そして体が浮き上がり、あっと言う間に空高くつれさられたのです。
リスをつかまえて飛んだのは、恐ろしいトンビでした。
リスは逃げ出そうと思いましたが、クタクタであばれる元気もありません。
もっとも本当にあばれたら、地面に落とされて死んでしまいますが。
「どっちにしても、ぼくは死んじゃうんだ」
その時、ビュー! と風が吹いたかと思うと、別のトンビがやって来て怒鳴りました。
「やい、痛い目にあいたくなかったら、そのエサをこっちへよこしな!」
「じょ、冗談じゃない!」
リスをつかまえたトンビは逃げましたが、リスが重くて思うように飛べません。
たちまちトンビとトンビが、夜空でたたかいを始めました。
リスは暗い夜空をツメでつかまれたままふりまわされ、痛さと怖さで何度も気絶(きぜつ)しそうになりました。
そのうちにリスをつかまえていたトンビが背中をつつかれて、思わずツメをゆるめたのです。
「うわぁー!」
リスは地面へと、まっさかさまに落ちて行きました。
「もう、だめだ!」
リスは気を失いましたが、何かにぶつかって、ハッと目を開けました。
運が良い事に、リスは森の木の枝にひっかかったのです。
リスは力をふりしぼって、木をおりました。
そしてやっと地面におりて、リスが木を見上げてみると、
「ああっ、ここは!」
そこは今まで住んでいた森で、落ちた木はリスの家のカシの木だったのです。
リスは大喜びで、作りかけの寝床(ねどこ)で丸くなりました。
「ああ、いい気持ち! 冬は寒くても、やっぱり自分の家が一番だ!」
リスは安心して、グッスリと眠りました。
おしまい
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