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5月25日の日本の昔話
ネコの大芝居
貓子个大棚戲
福妹日本童話集 (臺灣客語.海陸腔) 翻譯:鄧文政(ten33 vun55 zhin11)
むかしむかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
頭擺頭擺,有一個老阿公摎老阿婆戴在某位所。
二人は若い頃から一生懸命働いてきましたが、ちっとも暮らしが楽になりません。
兩儕從後生時節斯煞猛打拚,但係生活毋識豐湧過。
それでも不平も言わずに、
還係無怪怨,講:
「毎日元気の働けるのは、神さまのおかげです」
「逐日做得康健做事,係感謝保佑。」
と、神さまに感謝しながら暮らしていました。
緊感謝神明緊過生活。
ある日の事、おじいさんが言いました。
有一日,老阿公講:
「わしらにも、子どもがあるとよかったのだが」
「𠊎兩儕若係有一個子女有較好。」
「本当ですね。今さら子どもは無理ですけど、せめてネコの子でも飼いたいですね」
「正經,這下愛一個子女係當無理,毋過至少畜一條貓仔乜好。」
するとその日の夕方、どこからともなく一匹のぶちネコが迷い込んできたのです。
過後在該日臨暗仔,毋知哪位走來一條花貓仔。
「これはきっと、神さまがさずけてくださったにちがいない」
「這一定係神明賜个。」
「このネコを、今日からわたしたちの子どもにしましょう」
「俚從今晡日開始摎佢準做子女來畜。」
おじいさんとおばあさんはネコにぶちという名前をつけて、それはそれは大事に育てました。
老阿公摎老阿婆摎貓仔个名仔安到小花,細心細義照顧。
ぶちもすっかり二人になついて、どこへでもついてきてニャアニャアとあまえます。
小花也當愛接近佢兜,跈上跈下,ngiau ngiau滾做嬌。
二人はぶちがかわいくて、おいしい物があると自分たちが食べないでも、ぶちに食べさせます。
兩儕當惜小花,有好食个東西,自家毋盼得食留分小花食。
こうして十三年もたつうちに、小さかったぶちもすっかり年寄りになりました。
十三年後,小花變到當老了。
かしこいぶちは自分でしょうじの開け閉めも出来れば、留守番だって出来ますが、年を取ったために動きがにぶくて、庭で遊んでいる小鳥にまでからかわれるしまつです。
乖巧个小花自家若係會開、關紙門,斯做得掌屋,毋過歲數大了,動作較慢,嗄連花園肚个鳥仔都會搣耍佢。
ところがぶちよりも、おじいさんとおばあさんの方がもっと体が弱ってきて、畑仕事や川へ洗たくに行くのもしんどくなってきました。
毋過,老阿公摎老阿婆兩儕身體還較弱,連園事抑係去河壩洗衫褲乜越來越困難。
ある晩、おばあさんが言いました。
有一暗晡,老阿婆講:
「おじいさん、わたしたちもずいぶん年をとったけど、ぶちも人間ならわたしたち以上の年寄りです。
「老阿公,俚老了,小花歲數若係人類來講,比俚較多歲。
これでは、どちらが先に死ぬかわかりません。
這下,毋知麼儕會先死。
うまいぐあいに、ぶちが先に死んでくれたらいいですが、わたしたちが先に死んだらどうしましょう?」
最好小花先死,但係,若係俚先死該愛仰結煞? 」
「そうだな。出来る事なら、みんなで一緒にあの世へ行けたらうれしいのに」
「著哪,若係做得,大家共下來來去另一隻世界最好。」
ぶちは、いろりのふちでいねむりをしながら、二人の話を聞くともなしに聞いていましたが、とつぜん体を起こすと二人の間に座り、前足をきちんとそろえて言いました。
小花在地爐脣啄目睡,聽著兩儕講个話,忽然間䟘起來,坐在兩儕中央,前腳排齊齊,講:
「おら、長い間、二人にかわいがってもらいましたが、そろそろおひまをいただきたい」
「𠊎,長久以來你兩老恁惜𠊎,毋過就愛摎你請假了。」
ネコがいきなり口をきいたので、おじいさんもおばあさんもビックリして顔を見合わせます。
因為貓仔忽然間說話,老阿公摎老阿婆都感覺當奇怪,你看𠊎𠊎看你。
それでもおばあさんが、ぶちに言いました。
老阿婆摎貓仔講:
「まさか、お前に人間の言葉がわかるとは思わなかったので、とんだ話を聞かせてしまった。わたしたちはまだまだ元気だから、安心してここにいてくれ」
「想毋著,你聽得識人講个話,嗄分你聽著這種話,𠊎兩儕身體還好,所以請安心在這戴。」
おじいさんも、ぶちの背中をなでながら、
老阿公乜緊摸佢个背囊,講:
「そうさ。かわいいお前を残して、誰が死ぬもんか。死ぬ時はおばあさんもお前も一緒じゃよ」
と、言いました。
「係啊。麼人愛先死,伸著這得人惜个你?會死時節,會摎老阿婆、你共下死。」
すると、ぶちが言いました。
過後,小花講:
「二人の気持ちは、おら、涙が出るほどうれしいです。
「兩儕个心意,𠊎歡喜到目汁都會流出來。
でもやっぱり、これ以上、心配をかけるわけにはいきません。
總講,毋使愁恁多了。
ところで二人とも、芝居(しばい)が大好きでしたね。
著,兩儕都好看戲。
かわいがってもらったお礼に、芝居を見せたいと思いますが、どんな芝居がいいですか?」
為著報答你恁惜𠊎,表演一齣戲分你欣賞,你想愛看哪齣戲? 」
「芝居なんかいいから、このまま一緒にいてくれ」
「看戲斯好,還係恁樣共下就好。」
「いいえ、おらも、そろそろ仲間のところへ戻りますから」
「毋係,𠊎盡遽就愛轉去朋友該位。」
そう言われると、おじいさんもおばあさんも引き止める事は出来ませんでした。
聽著恁樣講,老阿公摎老阿婆想留都留毋核。
「さあ、どんな芝居を見たいか、言ってください」
「這下,摎𠊎講你兜想看哪齣戲?」
「そうさな・・・」
「恁樣哪...」
何しろ芝居を見たのは若い頃で、それも忠臣蔵(ちゅうしんぐら)という芝居を一回きりです。
有看戲乜係後生時節看過,斯看一擺忠臣藏這齣戲。
「そうだ、忠臣蔵が見たい」
二人は、同時に言いました。
兩儕都講:「係哦,想看忠臣藏這齣戲。」
「それでは、忠臣蔵を始めから終わりまで、たっぷり見せてあげましょう」
「恁樣,從頭到尾做分你看。」
ぶちは、長いひげをピンと伸ばして、
小花摎鬚伸到長長講:
「では、本当に長い間お世話なりました。来月三日のお昼、裏山の空き地へ来てください」
「𠊎長期受你照顧,請你兜下隻月初三當晝,來山頂个空地。」
と、言うと、おばあさんにつけてもらった首の鈴(すず)を鳴らしながら、家を出て行きました。
摎老阿婆綯在頸根个鈴仔緊舞響緊行出屋肚。
次の日からは、ぶちのいないさみしい暮らしです。
從第二日開始,過等無小花个孤栖生活。
「ああ、ぶちに会いたい」
「啊,想見小花。」
「早く、三日が来ないかな」
「三日會盡遽到哪。」
おじいさんもおばあさんも、三日が来るのをゆびおり数え、やがて三日がやってきました。
老阿公摎老阿婆逐日抝手指在該算,無幾久三日到了。
おじいさんとおばあさんは、お昼になるのを待ちかねて裏山へのぼって行きます。
兩儕望毋得到當晝,蹶等去山頂。
でも、空き地には大きな石が転がっているだけで、誰もいません。
空地斯看著一隻大石牯無半個人。
「ネコは年を取ると化けるというが、こりゃ、ぶちのやつにだまされたのかな?」
「貓仔老了會變精,會係小花搣耍人个無?」
「いいえ、うちのぶちは、そんなネコじゃありません。きっとやってきます」
「毋係,屋下个小花毋係該種貓仔。
二人で話し合っていると、近くの草むらでチリリンと鈴の音がしました。
兩儕討論過後,聽到就近草竇肚傳來liang liang滾个鈴仔聲。
「それ来た。あの鈴の音は、ぶちの物に違いない」
「佢來了。該鈴仔聲係小花个無毋著。」
そう言っておばあさんが立ち上がると、草の中からヒョイとぶちが現れました。
講忒後,老阿婆企起來時節,忽然間小花出現在草竇肚。
「おじいさん、おばあさん、よく来てくれました。さあ、そこの石に座ってゆっくり見物していってください」
「阿公、阿婆,你好。來坐在石牯頂,慢慢欣賞。」
ぶちはていねいに頭を下げると、草の中に姿を消しました。
小花盡有禮貌犁下頭行禮後,消失在草竇肚。
そのとたん、♪チョンという拍子木(ひょうしぎ)の音がひびいて、草原の中に立派な舞台(ぶたい)が現れました。
在該下,♪ chon,上棚囉,草坪項出現一隻當靚个舞台。
後ろには、白い幕(まく)もはってあります。
後背掛等白幕。
「こりゃすごい。本物の舞台だ!」
「這還靚。這係正經个戲台!」
二人がびっくりしていると、さっと幕が開いて役者が次々と舞台へ出てきました。
兩儕著驚時節,布幕拉開來了,演員一個接一個走上舞台。
どの役者もきれいな衣装(いしょう)をつけていて、後ろには三味線(しゃみせん)をひく人や歌をうたう人がずらりと並んでいます。
逐個演員都著等萋頭个服裝,後背係一群彈三弦琴摎唱歌仔个人。
やがて、芝居(しばい)が始まりました。
無幾久,戲劇開始了。
どの役者も実に芝居が上手で、二人はただもう夢中で舞台をながめました。
所有演員都非常會表演,兩儕像發夢樣看著目絲絲。
「うまいなあ」
「還會做哪。」
「なんてきれいだ」
「仰會恁好看。」
幕が開いては閉まり、閉まっては開き、忠臣蔵(ちゅうしんぐら)の長い芝居が終わった時には、まるで夢の中にいる気分です。
布幕打開又關忒,關忒又打開,當長个忠臣藏這齣戲下棚時節,斯像發夢樣。
「よかったね。おじいさん」
「還好看。老阿公。」
「ああ、こんな立派な芝居を見るのは、生まれて初めてじゃ」
「啊,這恁出色个表演𠊎這生人第一擺看著。」
二人がほっとして、もう一度前を見たら、舞台はあとかたもなく消えていて、もとの草原に変わっていました。
兩儕敨下大氣,再過看一下頭前時節,戲棚毋見忒了,變轉原來个草坪。
「ニャアー」
「ngiau!」
その時、どこかでネコの鳴く声がしました。
該量時,毋知哪位有貓仔叫个聲。
でもぶちは、それっきり二度と姿を見せなかったそうです。
聽講小花自該擺以後毋識再過出現。
註:三味線(しゃみせん)は日本の弦楽器で、さおは長さ3尺2寸(約97センチメートル)前後のものが標準的で、胴は少し膨らみのある四角形、両面にネコやイヌの皮を張ります。
註:三弦琴係日本个一種弦樂器,厥標準長度大約為3尺2寸(約97厘米),身體為四角形,略略膨起來,兩面弓貓仔皮抑係狗皮。
註:三弦で、一の糸は太くて調低く、三の糸は細くて調高く、二の糸はその中間。
註:三條弦,一條弦線係粗線、音較低,第三條弦線係幼線、高音,第二條弦線在中央。
註:起源は中国の三弦とされ、永禄(1558~1570)年間に琉球から泉州堺に伝来した蛇皮を張ったものを改造し、琵琶法師が広めたと言われています。
註:聽講發源於中國三弦,永祿(1558-1570)年間,改用從琉球傳過來个泉州堺蛇皮,聽講係琵琶法師推廣。
おしまい
煞咧
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