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第 132話
踊るネコ
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むかしむかし、隠岐島(おきのしま)のある村の盆踊り(ぼんおどり)に参加した若者たちが、きげん良く峠(とうげ)の道を歩いていると、どこからともなく盆踊りのにぎやかな歌声が聞こえてきました。
「おい。こんな山の中で盆踊りをやっとるぞ。いったい、どこでやってるんだろう?」
若者たちが歌声をたよりに探すと、林の中の草地で月の光をあびながら、七・八匹のネコが手ぬぐいでほおかぶりをして踊りを踊っていたのです。
若者たちは杉の木のかげにかくれて、ジッと様子を見ていました。
やがて、一匹のネコが、
♪トラどん、まだか? トラどん、まだか?
と、いってはやしだすと、ほかのネコたちもすぐに続けて、
♪トラどん、まだか? トラどん、まだか?
と、手ぶりも上手に、はやしたてるのです。
若者の一人が、ほかの若者に小声でたずねました。
「おい、トラどんとは、あのネコの事か?」
「ああ、おそらくな」
トラとよばれているネコは、峠をおりた若者たちの村の入口にある、お百姓(ひゃくしょう)の家のネコの事です。
もう二十年近く生きている大きなトラネコで、若者たちもよく知っていました。
踊っているネコたちは、お腹に手をあてたりしながら、
♪トラどん、まだか? トラどん、まだか?
と、はやしたてていました。
若者の一人が、青い顔で言いました。
「これは、人間が見てはならん事になっておるネコの踊りじゃな。・・・なんだか、気持ちが悪くなってきたぞ」
「うん、おれもだ。たたられんうちに、はやく帰ろう」
若者たちはその場からはなれようとしましたが、けれども村へ帰るにはネコたちが踊っている方向へ行かなくてはなりません。
若者たちは出来るだけ静かに歩いたのですが、ネコたちはその気配(けはい)に気づいたのか、
♪人間に見られた。人間に見られた
と、言って、次々とやぶの中へ逃げて行ったという事です。
おしまい
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