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第 145話

助けたハチの恩返し

助けたハチの恩返し
山形県の民話山形県の情報

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 むかしむかしの、ある秋の事、貧乏な若者が小銭を持って塩を買いに出かけました。
 するとその途中、子どもたちがハチを捕まえて、その体に糸を結んで遊んでいるのに出会いました。
「ほれ、ハチ、ちゃんと飛んでみろ。飛ばなかったら、羽をむしり取るぞ」
 それを見た若者は、そのハチが可哀想になり、
「お前たち、おこずかいをやるから、そのハチを放してやりなさい」
と、言って、持っていた小銭を子たちに分けてやりました。
 そして若者は子どもたちからハチを受取ると、結ばれた糸をほどいてやり、
「ほら、もう捕まるんじゃないぞ」
と、ハチを逃がしてやりました。
 するとハチはお礼のつもりなのか、若者の頭の上をブンブンブンと飛びまわると、そのままどこかへ飛んで行きました。

 さて、若者は塩を買うお金がなくなったので、仕方なく村はずれまで散歩に出かけました。
 すると村一番の長者の家に、こんな立て札が掛かっていたのです。

《裏山の杉の木を数えた者には、一人娘の婿に迎える》

「杉の木を数えるだけで、長者の家の娘婿になれるのか。これはいい話だぞ」
 そこで若者は裏の山に入って、杉の木を数え始めました。
「一本、二本、三本。・・・四十八本、四十九本、五十本。・・・九十八本、九十九本、百本。うひゃあ、こりゃ大変だ」
 若者が百本数えても、それはまだ入口の方で、杉の木立は、まだまだ奥へと続いています。
「とても無理だ。何年かかっても、数え切れねえぞ」
 若者はうんざりして、あきらめて帰ろうとしました。
 すると、どこからかあのハチが飛んできて、若者の耳元で、
♪ブンブンブン
♪三万三千三百三十三本
♪ブンブンブン
と、繰り返し、繰り返し、歌うように羽音を鳴らすのです。
「おや? この三万三千三百三十三本っていうのは、この山の杉の木の数の事かな? もしかして、ハチが恩返しに教えてくれているのだろうか? よし、駄目でもともとだ!」
 若者は長者の家に行って、長者に尋ねました。
「あの、立札に書いてある事は、本当ですか?」
「ああ、本当だとも」
「なら、おらは杉の木の数を数えました」
「ほほーお、お前さん、あの杉の木を全部数えたのか? しかし、今までも何人もの若者がやってきたが、みんな当てずっぽうのでたらめじゃったぞ」
「おらのは、本当です」
「では、何本あったな?」
「はい。三万三千三百三十三本です」
 それを聞いた長者は、目を丸くして若者を見つめました。
「こいつは驚いた。よく数えたものだ。だが、それだけでは婿には迎えられん。娘は一番奥の座敷に居るから、次々と座敷を抜けて、見事娘に会ってみろ。そうしたら、婿に迎えよう」
「はい、わかりました」
 若者は長い廊下を歩いて、初めの座敷のふすまを開けたました。
 するとその部屋には何十匹ものヘビが放し飼いにされており、鋭い目で若者を睨み付けています。
 すると、あのハチが飛んできて、
♪こっちじゃない
♪あっちを開けろ
♪ブンブンブン
と、別のふすまを教えてくれたのです。
 そこを開けると何も無い座敷で、通り抜けて次を開けると、今度は気味の悪いカエルが足の踏み場もないほど、いっぱいいました。
 若者が困っていると、またハチが飛んで来て、
♪こっちじゃない
♪あっちを開けろ
♪ブンブンブン
と、別のふすまを教えてくれました。
 その通りにすると、また何も無い座敷で、そこを通り抜けて次を開けると、今度は大きなナメクジが部屋中にうようよいます。
 若者が困っていると、またハチが飛んで来て、
♪こっちじゃない
♪あっちを開けろ
♪ブンブンブン
と、別のふすまを教えてくれました。
 そのふすまを開けると何も無い座敷で、通り抜けて次を開けると、そこには美しい娘がいて

「よく来ましたね」
と、にっこり微笑んで若者を迎えてくれました。
 こうして若者は、ハチのおかげで長者の娘婿になることが出来たのです。

おしまい

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