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第 164話

俳句の先生(小林一茶)

俳句の名人(小林一茶)
長野県の偉人長野県の情報

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 むかしむかし、信濃の国(しなののくに→今の長野県)の貧しいお百姓の家に、弥太郎(やたろう)という男の子がいました。
 あまりにも貧しさのために、弥太郎のお母さんは弥太郎が三つの時に病気で死んでしまいました。
「母さんがいなくたって、ばあさんがいるから困る事はない」
 弥太郎は、そう思って元気を出しましたが、おばあさんは目が悪くて着物をぬう事などは出来ません。
 ですから弥太郎の着物は、いつもボロボロでした。
「親なし弥太郎ー! ボロボロ弥太郎ー!」
 村の子どもたちは、いつも弥太郎を馬鹿にします。
「うるさい! 親がいなくともばあさんがいる。ボロ着物は、好きで着とるんじゃ」
 弥太郎はそう言い返しますが、その目には悔し涙が浮かんでいます。

 そんな弥太郎を見て、お寺の和尚さんが言いました。
「弥太郎。よかったら、わたしの寺に遊びに来なさい」
 喜んだ弥太郎は、それから毎日、お寺へ遊びに行きました。

 ある日の事、和尚さんが弥太郎に言いました。
「お前は頭のいい子だ。その気があるのなら、勉強を教えてやろうか?」
「はい、お願いします」
 弥太郎は喜んで、和尚さんに勉強を教わりました。

 弥太郎が八つになった時、弥太郎の家に新しいお母さんが来て、次の年には赤ん坊が生まれました。
 お兄ちゃんになった弥太郎は、毎日、赤ん坊の世話をしました。
 でも赤ん坊の世話が忙しいので、お寺へ勉強を習いに行く事が出来ません。

 ある春の日の事、赤ん坊を背負った弥太郎が棒で道の上に字を書いていると、スズメたちが近くにやって来ました。
 お母さんスズメと、まだよく飛べない子スズメたちです。
 弥太郎がスズメたちを見ていると、道の向こうから馬が来ました。
 子スズメたちが馬に踏まれてそうになり、弥太郎は思わず叫びました。
「あぶないよ! 早く、そこをのけなよっ、早く!」
 その弥太郎の声に、子スズメたちは何とか道のはしに逃げる事が出来ました。
「ああ、よかった。スズメの子よ、お馬が通る時は、早くのかないといけないよ」
 ほっとすると弥太郎の頭の中に、ふと、和尚さんから習った俳句が浮かびました。

♪スズメの子
♪そこのけそこのけ
♪お馬が通る

 次の日、弥太郎はそれを紙に書いて、お寺へ持っていきました。
 するとそれを見た和尚さんは、目を丸くして驚きました。
「これは素晴らしい。良く出来た俳句だ。その時の光景が、ありありと目に浮かぶわい」
 にっこり微笑んだ弥太郎は、もう一枚の紙を差し出しました。
「この間、たった一羽でさびしそうだった子スズメを見ました。その時に作ったのがこれです」

♪われと来て
♪遊べや親の
♪ないスズメ

 和尚さんは、またまた驚きました。
 この二つはその時の光景が目に浮かぶだけでなく、弥太郎のやさしい気持ちがとても伝わってきます。
「弥太郎! お前は俳句の勉強をしなさい! きっと立派な先生になれる!」
 和尚さんにほめられた弥太郎は、それから一生懸命に俳句の勉強を続けました。
 そして弥太郎は、小林一茶というとても偉い俳句の先生になったのです。

おしまい

一茶の代表的な俳句

【春の句】
・雪とけて村いっぱいの子どもかな
解説:雪国の長い冬がようやく終わり、雪が解け出した。家の中にこもっていた子どもたちがいっせいに外へ出て遊んでいて、村じゅうが子どもたちでいっぱいだ。〔季語〕雪とく

・やせ蛙(がへる)まけるな一茶これにあり
解説:かえるがけんかをしている。やせたカエルよ、がんばれ負けるな。おれ(一茶)がここについているぞ。〔季語〕蛙

【夏の句】
・大蛍(おほぼたる)ゆらりゆらりと通りけり
解説:大きな源氏蛍が、暗やみの中を大きな弧を描きながらゆらりゆらりと飛んでゆく。〔季語〕蛍

・やれ打つな蝿(はへ)が手をすり足をする
解説:それ、蝿を打ち殺してはいけない。よく見ると、手をすり合わせて命乞いをしているではないか。〔季語〕蝿

【秋の句】
・名月をとってくれろと泣く子かな
解説:名月を取ってくれとわが子が泣いてねだる。親として、それにこたえてやれないじれったさ。〔季語〕名月

・けふからは日本の雁(かり)ぞ楽に寝よ
解説:はるばると海を渡ってきた雁よ。今日からは日本の雁だ。安心してゆっくり寝るがよい。〔季語〕雁

【冬の句】
・うまさうな雪がふうはりふうはりと
解説:空の上から、うまそうなぼたん雪が、ふうわりふうわりと降ってくることだ。〔季語〕雪

・ともかくもあなたまかせの年の暮(くれ)
解説:あれこれ考えたところでどうにもならない。この年の暮れも、すべてを仏さまにお任せするよりほかにない。〔季語〕年の暮

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