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第 302話
弘法の手ぬぐい 弘法話
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むかしむかし、弘法大師(こうぼうだいし)という、とても立派なお坊さんがいました。
でも大師は、いつもボロボロの着物で旅を続けていたので、多くの人は大師が偉いお坊さんだとは気がつきませんでした。
ある寒い日の事、大師はお金持ちの屋敷の戸をたたきました。
すると中から若い女中が出て来たので、大師はペコリと頭を下げて言いました。
「昨日から何も食べておりません。食べ残しでもかまわないので、何か分けてもらえませんか?」
すると娘はにっこり笑って、
「それでは、これをどうぞ」
と、お餅を三つ包んでくれました。
「ああ、これはおいしそうだ。ありがとう」
受け取った大師は女中にお礼を言って、屋敷を出て行きました。
さて、大師がいなくなると、屋敷の奥さんが女中を怒鳴りつけました。
「お前は今、坊主に餅をやったね、何てもったいない!」
「でも、奥さま。あのお坊さまは、もしかすると」
「何だい! お前はまた、あの坊主こそは弘法大師かもしれないと言うんだろう。
はん、いくらなんでも、あんな汚い坊主が弘法大師なもんかね。
さあ、早く餅を取り返しておいで! でないと、二度と家には入れないよ!」
屋敷を追い出された娘は、仕方なく大師を追いかけました。
そしてやっと追いつくと、すまなさそうに言いました。
「ごめんなさい、お坊さま。
屋敷の奥さまが、どうしてもお餅を取り戻しておいでと言いつけるものですから・・・。
どうか先ほどのお餅を、返していただけませんか。
ごめんなさい。本当にごめんなさい」
すると大師は、やさしく笑って言いました。
「心の美しい娘さんが、意地悪な主人のもとで働らかなくてはならないとは気の毒な事です。
はい、餅はお返ししましょう。
そしてこの手ぬぐいを、あなたにさしあげましょう」
「手ぬぐいを?」
「これで一日に何度も顔をふいてごらんなさい。
心の美しいあなたなら、きっと良い事がありますよ」
そう言って大師は、去って行きました。
屋敷に戻った娘は、さっそくもらった手ぬぐいで顔をふいてみました。
すると不思議な事に、肌がつやつやと輝くではありませんか。
もう一度ふくと、日焼けで浅黒くなった肌が、白くてやわらかな肌へと変わりました。
「まあ、この手ぬぐいは、顔がきれいになる手ぬぐいだわ。あの方はやっぱり弘法大師さまだったんだわ」
娘は喜んで毎日毎日顔をふき、毎日毎日少しずつきれいになりました。
娘がどんどんきれいになっていくのを不思議に思った奥さんは、娘の部屋をのぞき見て手ぬぐいの事を知りました。
「なるほど、あの手ぬぐいで顔をふくときれいになるのか」
奥さんは娘に用事を言いつけると、娘の留守にあの手ぬぐいでそっと顔をふいてみました。
するとそのとたん、手ぬぐいでふいた顔がムズムズします。
奥さんはいそいで鏡をのぞきました。
すると、
「ぎゃあーー!」
奥さんは鏡を放り出して、後ろにひっくり返ってしまいました。
なんと奥さんの顔はきれいになるどころか、醜いイノシシの様な顔になっていたのです。
「こんなはずは!」
奥さんがあわててもう一度顔をふくと、
「ブヒー、ブヒー」
今度は声が、イノシシの鳴き声に変わってしまいました。
大師が娘にやった手ぬぐいは心の美しさを顔に現わす手ぬぐいで、心の美しい娘が顔をふくと美人に、心の醜い奥さんが顔をふくと、それにふさわしい動物の顔になるものでした。
おしまい
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