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第 305話
蚊渕(かぶち) 弘法話
香川県・坂出市の民話→ 香川県の情報
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むかしむかし、香川県坂出市の高屋(たかや)というところに、与平(よへい)と、おときという夫婦がいました。
この夫婦は貧しいけれど、とても仲が良くて心優しい夫婦です。
この高屋にある遍照院(ほんじょういん)というお寺では、弘法大師(こうぼうたいし)と言う偉いお坊さんが2ヶ月間の修業をしていました。
それを知った与平夫婦は大師のお世話がしたいと、食べ物を用意したり風呂をわかしたりと、大師の身のまわりのお世話を自分たちからすすんで行いました。
やがて大師が2ヶ月間の修行を終えて、いよいよこの村を出発する前の日の事です。
大師は色々とお世話をしてもらった与平夫婦をお寺に招待すると、二人に深々と頭を下げて言いました。
「長い間、本当にお世話になりました。
あなた方のおかげで、無事に修行を終えました。
今までのお礼に、何かお返しをしたいと思います。
遠慮無く、欲しい物を言って下され」
「いえいえ、お返しなど、とんでもありません。わしらはただ、お大師さまのお役に立てただけでうれしいのです」
「それでは、何か困った事はありませんか?」
「そうですな。私どもは毎晩、蚊(か)に悩まされています。といっても、かやを買うほどのぜいたくもできませんので」
「ふむ、蚊ですか・・・」
大師は、何か考えがありそうな様子です。
次の朝、大師は与平夫婦の家を訪ねました。
「お邪魔しますよ」
大師は与平夫婦の家にあがると、部屋のまん中で正座をして何やらお経の様なものを唱えました。
そしてお経を唱え終えた大師が両方の手のひらでおわんの形をつくるとどうでしょう。
「ブーーン」
「ブーーン」
「ブーーン」
不思議な事に家中の蚊が大師の手のひらに集まってきたではありませんか。
やがて集まった蚊は、大師の手のひらの中で大きなお団子の塊のようになりました。
大師は、お団子の様に集まった蚊の固まりを崩さないように立ち上がると、そのまま近くの沼へ行ってポイと捨てました。
「これで大丈夫。家には二度と蚊は現れないでしょう」
大師はそう言うと、再び修行の旅に出かけました。
大師の言葉は本当で、それから与平夫婦の家の中には一匹の蚊も現われなくなりました。
大師が蚊を捨てたという場所が、今も『蚊渕(かぶち)』と呼ばれて残っているそうです。
おしまい
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