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第 310話
こんにゃく問答
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むかしむかし、ある山奥に禅寺がありました。
この禅寺の山門の下には一軒のこんにゃく屋があって、禅寺の和尚さんとこんにゃく屋のおやじさんは大の仲良しでした。
ある日、禅寺に都の大本山から手紙が届きました。
手紙の内容は、
《本山の大和尚さんが問答かけにやって来る。それに応じられなかったら、和尚には寺を出てもらうかもしれぬ》
と、いうものでした。
「大変だ、どうしよう」
あまり頭の良くない禅寺の和尚さんは、すっかり困ってしまいました。
そこで和尚さんは、仲良しのこんにゃく屋に身代わりを頼んだのです。
和尚さんの着物を着たこんにゃく屋のおやじさんが禅寺で待っていると、本山から頭の良さそうな大和尚さんがやって来て、さっそく問答かけをはじめました。
まず大和尚さんが左手の親指と人差し指で小さな丸を作り、右手の親指と人差し指で大きな丸を作って見せました。
「これいかに」
するとおやじさんは、手を広げて答えました。
次に大和尚さんが両手の指十本を広げると、おやじさんは片手の指五本を広げて突き出しました。
最後に大和尚さんが指を三本突き出すと、おやじさんはあかんべえをしてみせました。
大和尚さんはおやじさんに深く一礼すると、満足そうに立ち去りました。
大和尚さんはこんにゃく屋に立ち寄ると、こんにゃく屋の主人の着物を着た和尚さんにこんな事を言いました。
「あの寺の和尚さんは、実に偉いお方じゃ。
わしが両方の手で輪っかを作り『日と月の間は?』と尋ねると、手を大きく広げて『大海のごとし』と答え、
指を十本出して『十方世界は』と尋ねると、指を五本出して『五戒(ごかい)をたもつ』と答え、
指を三本出して『三界(さんかい)は』と尋ねると、赤んべえをして『目の下にあり』と答えなさった」
それを聞いてびっくりした和尚さんは、すぐに禅寺に行っておやじさんに尋ねました。
「お前、いつからそう偉くなったんじゃ」
するとおやじは、こう答えました。
「さすがは、大和尚さんじゃ。
わしが本当はこんにゃく屋だということを知っていて、指でこんにゃく玉の形をつくって『お前のところのこんにゃくは、こんなに小さいのか?』と聞かれた。
そこでわしは手を広げて、こんなに大きいと答えてやった。
次に両手を広げて『お前のところのこんにゃくは十文か』と聞かれたので、片手で五文だと答えた。
最後に指三本出して三文に負けろといわれたので、そんなことできるもんかと、あかんべえをして見せたのじゃ」
おしまい
→ よく似た話に「もち屋の禅問答」があります。
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