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第 312話

黒覆面と寺男

黒覆面と寺男
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 むかしむかし、江戸の牛込(うしごめ)というところに、清浄寺(せいじょうじ)というお寺がありました。
 ある晩の事、シーンと静まった寺の境内(けいだい)に、あやしい影が一つ、二つ、三つと寺の門を入ってきました。
 影は三つとも、黒い布で覆面をしています。
 ミシリ、ミシリ、ミシリ。
 本堂の廊下を渡って住職(じゅうしょく)の部屋の前までくると、覆面たちはスラリと刀を抜きました。
 部屋の中では、和尚(おしょう)がグッスリと寝込んでいます。
 覆面の三人はふすまを開けて中に入ると、天井からつりさげているかや(→ふとんごと天井からかぶせる虫よけのアミ)のつり手を切りおとしました。
「うわあーっ!」
 覆面は、おどろく和尚をかやごとグルグル巻きにして、
「やい、和尚。金のありかを言え!」
「言わぬと、ひと思いに」
「あの世行きだぞ」
 和尚は、ブルブル震えながら言いました。
「こんな寺に、金などあろうはずはないわい」
「うそをつくな、たんまり隠しているとのうわさだぞ」
「知らん、ない物はない」
 盗賊たちと和尚の言い合いが、だんだん激しくなってきました。
 その声を、台所の近くで寝ていた寺の下男(げなん→下働き)が聞きつけました。
 下男は起きると和尚の部屋へ近づき、そして部屋の中ヘ片手を入れると手まねきで、
「おいで、おいで」
を、しました。
 すると三人の親分らしいのが、そばヘよってきます。
 下男は小さな声で、
「お前さんたち。和尚をせめたって、しゃベるもんでねえ。金の隠し場所なら・・・」
と、自分を指さします。
 親分も低い声で、たずねました。
「お前が、知っとるというのか?」
 下男は、コクンとうなずきました。
 そこで三人の盗賊は和尚の部屋を出ると、暗い廊下を下男のあとからついていきました。
「おい、どこまで連れていくんだ?」
「もうすぐ、金銀はすぐそこの観音堂(かんのんどう)の中の、さいせん箱の下にうめてあります」
 下男は三人を観音堂に案内すると、大きなカギをはずして中に入りました。
「それ、そのさいせん箱じゃ。ちと重いが、こいつをどかせば・・・」
 下男は盗賦たちと一緒になって、さいせん箱を持ち上げようとしましたが、
「どうもいかん。こうもまっ暗では、何も見えん。どれ、ちょうちんをとってこよう」
と、下男は観音堂を出ると、素早くとびらにカギをかけました。
 そしてそのまま走りだすと、本堂の廊下にある鐘を、
 カン! カン! カン! カン!
 カン! カン! カン! カン!
と、力いっぱいに鳴らしました。

 こうして観音堂にとじ込められた盗賊たちは、頭の良い下男のおかげで、そのままかけつけた役人につかまりました。

おしまい

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