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第 328話
ひょっとく
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むかしむかし、あるところに、気の良いおじいさんとちょっと欲張りなおばあさんが住んでいました。
ある日の事、おじいさんは山へ芝刈りに行って、とても大きな穴を見つけました。
「穴には、悪いものが棲むというからな。よし、ふさいでやろう」
そこでおじいさんは大きな芝の束を作ると、それでその穴をふさごうとしましたが、芝の束は吸い込まれるように穴の中へと入ってしまいました。
そこでおじいさんはもう一束作ったのですが、これも中へ吸い込まれてしまいました。
「何とあきれた大穴じゃ、一体、どのくらいの深さじゃろう?」
おじいさんは穴の中をのぞいてみましたが、穴は深くて吸い込まれた芝の束は見えません。
それでおじいさんは、穴の中へ声をかけました。
「おーい!」
すると穴の中から、返事が返ってきました。
「はーい。ただいま参ります」
そして穴の中から、美しい娘が出て来たのです。
娘はおじいさんに、丁寧に頭を下げました。
「先ほどは、たくさんの芝をありがとうございます。お礼をしたいので、一緒に中へおいで下さい」
そこでおじいさんは娘に連れられて、穴の中へと入って行きました。
穴の中には立派な屋敷があって、その入り口にはおじいさんが入れた芝の束が積み重ねられていました。
「どうぞ、お入り下さい」
屋敷にはきれいな座敷があり、座敷には立派な白いひげのおじいさんがいました。
白いひげのおじいさんは、にっこり微笑んで言いました。
「芝のお礼に、これをやろう」
そう言って、一人の子どもを連れてきました。
その子どもの口はとんがって横に曲がっており、何ともぶさいくな顔です。
そして子どもは、自分のおへそばかりをいじっていました。
「こんな子どもをもらっても」
おじいさんは断ろうとしましたが、白いひげのおじいさんはぜひ連れて行ってくれと、何度何度も言います。
「まあ、わしには子どもがいないから、そこまで言うのなら」
おじいさんは仕方なく、その子どもを連れて帰りました。
こうしておじいさんとおばあさんは、ぶさいくな顔の子どもを『ひょっとく』と名付けて、三人で暮らす事にしたのです。
さて、このぶさいくな顔のひょっとくは、いつもおへそばかりいじって少しも家の手伝いをしません。
「変な子どもじゃ。いつもへそをさわっているが、中に何か入っているのか?」
ある日、おじいさんは寝ているひょっとくのおへそを、火箸でちょんと突いてみました。
するとそのおへそから、金の粒がポロリと出てきたのです。
「おお、金じゃ、金じゃ」
その日から、おじいさんはひょっとくのおへそを一日に三度火箸で突いて、三粒の金の粒を手に入れました。
おかげで
、おじいさんとおばあさんは金持ちになりました。
そんなある日の事、おばあさんはこう考えました。
「おじいさんは欲がないから一日に三粒の金で満足しているが、もっと火箸でへそを突っつけば、もっと金持ちになれるに違いない」
そしておじいさんが出かけているすきに、欲を出したおばあさんがひょっとくのおへそを何度も何度も火箸で突いたのです。
「おお、金じゃ、金の粒がどんどん出てくる」
そのうちに、ひょっとくがおへそを押さえてお腹が痛いと言いましたが、おばあさんはまだまだ満足しません。
「もっとじゃ、もっともっと金を出すんじゃ」
それからもおばあさんは、火箸でひょっとくのおへそを何度も突きました。
するとひょっとくはお腹を押さえて、そのまま死んでしまったのです。
その夜、泣きながらひょっとくのお葬式を済ませたおじいさんの夢枕に、ひょっとくが現れて言いました。
「じいさん、泣くな。
どうせ、おらの寿命は短かったんだ。
ばあさんを、せめてはいかんぞ。
それより、良い事を教えてやろう。
おらの顔に似たお面を作って、よく目にかかる所に置いておけ。
そうすれば、この家はますます栄えるぞ」
そこでおじいさんは、ひょうとくのお面を作って、毎日良く目にするかまどの前の柱にかけました。
するとひょっとくの言葉通り、家はますます栄えたのです。
そしてこの話が広まって、他の家でもひょうとくのお面をかまどの前の柱に掛けるようになりました。
このお面が、おかしな顔で有名な『ひょっとこ』お面の始まりだと言われています。
おしまい
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