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6月25日の日本民話 2
長者に生まれ変わる
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むかしむかし、伊予の国(いよのくに→愛姫県)の仏村と言うところに、作太という変わった男が住んでいました。
ある日の事、作太が川のそばで股を押さえて足ぶみをしているのを見て、村人が尋ねました。
「おい作太、どうした?」
「おら、小便したくて」
「したけば、川ですればよかろう」
すると作太は、もじもじしながら、
「でも、この川へ小便をしたら、川下で水を飲む人が困るじゃないか」
と、言いました。
「なるほど。確かに作太の言うとおりじゃ。それなら、早く家に帰ってしたらどうだ」
「そうか! それもそうだな」
作太は大慌てで、自分の家へ帰っていきました。
いつもがこんな調子ですから、畑仕事も山仕事も満足に出来ず、食べては寝るだけの毎日です。
ところが、ある日の事、作太の夢の中に仏さまが現れて言いました。
「これ、作太、お前はみんなから、『ぐず』、『のろま』と言われて馬鹿にされているが、そんなお前でも一生懸命にお経を唱えれば、必ず村一番の利口者になれるだろう」
それを聞いた作太は、この事を大喜びで村中にふれまわりました。
しかし、誰も作太の言う事など信じません。
「何を言ってやがる。そんな事を言っているから、みんなに馬鹿にされるんだ」
それでも作太は家に戻ると、さっそく仏壇の前に座って、お経を唱え始めました。
すると不思議な事に、覚えてもいないお経が、すらすらと口から出てくるのです。
これには村人たちも驚いて、
「へええ、あの作太がね」
「それにしても、よく毎日続くものだ」
「だが続いても、作太が利口者になれるわけがない」
と、面白半分にうわさしました。
しかし不思議な事に、作太はお経を唱えるようになってから人が変わった様にしっかりしてきて、畑仕事も山仕事も、誰にも負けないほどになったのです。
こうしてすっかり一人前になった作太は、誰からも馬鹿にされる事はなくなり、やがて六十歳になりました。
気がつけば、嫁ももらわずに一人で生きて来ましたが、作太には今さらなんの望みもありません。
このまま年を取って極楽へ行く事が出来れば、それでいいのです。
今では、お経を唱える為に生きている様な毎日でした。
ある晩の事、作太の夢の中に再び仏さまが現れて、こう言いました。
「これ、作太、長い間、よくぞわたしを拝んでくれた。今度生まれてくる時は長者の息子として、幸せな一生を送るだろう。だから安心して死ぬがよい」
次の日から作太は病気になり、日に日に弱っていきました。
そしていよいよ最後が近づくと、村中の人たちが見舞いにやって来ました。
すると作太は、枕元にいる人たちに向かってこう言いました。
「おれは、仏さまのお迎えで死ぬことになった。しかし今度生まれてくる時は、長者の息子になっているから、そのつもりでいてくれ」
それを聞いた村人たちは、すっかりあきれました。
「作太は利口になったと思っていたが、死にぎわになって、また馬鹿に戻ったぞ」
それを聞くと、作太はこう言ったのです。
「おれの言う事が信じられないのなら、おれのおでこに《仏村の作太》と書いてくれ。そうすれば、おれが長者の息子に生まれ変わった時に、おでこに名前がついているはずだ」
「仕方ない。作太の言う通りにしてやれ」
そこで村人たちは作太の言う通り、おでこに墨で《仏村の作太》と書いてやりました。
すると作太は満足そうに笑うと、そのまま息を引き取ったのです。
さて、作太が死んで三年ほど過ぎた頃、京の都の長者の家に男の子が生まれました。
そして不思議な事に、その子のおでこには、何やら黒いしみがついているのです。
両親は心配して医者に見せましたが、ただのしみなので、そのうちに消えるだろうと言いました。
しかしそのしみは、この子が大きくなるにつれて、ますます黒くなっていくのです。
そして五歳になるとはっきりと、《仏村の作太》と、読めるようになったのです。
長者はびっくりして、あちこちから有名な医者を呼んできましたが、どんな薬を塗ってもそのしみは消えません。
そこで仕方なく、都で評判の占い師を呼んで調べてもらう事にしました。
すると占い師は、子どものおでこを見るなり、こう言ったのです。
「これは病気ではありません。おそらく、作太という男の生まれ変わりを示す物でしょう。この字を消すには仏村というところへ行って、作太の墓を探す事です。そしてその墓の土でおでこをこすれば、しみは必ず消えるでしょう」
それを聞くと、長者はすぐに仏村がどこにあるかを調べさせました。
めずらしい名前なので、それは伊予の国にあるとすぐにわかりました。
そこで使いを伊予の国の仏村へやり、村人にわけを話して作太の墓の土を持ってこさせました。
そして長者が、その土で男の子のおでこをこするとどうでしょう。
あれほどはっきりと現れていた字が、うそのように消えたのです。
その後、この男の子は心のやさしい長者になり、仏村にある作太の墓を立派な物に作りかえると、一生幸せに暮らしたということです。
おしまい
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