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12月10日の日本民話 2
上杉の殿さまとカモ取り
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むかしむかし、山形県の米沢に、一人のカモ取り名人がいました。
ある日の事、上杉の殿さまが家来に言いました。
「カモ取り名人がいるそうだが、その名人芸を見てみたいものだな」
それを聞いた家来が、カモ取り名人の所へ行って言いました。
「殿が名人のカモ取りを見たいと申しておるので、お願いに来ました」
すると名人は、その家来にこう言ったのです。
「カモ取りというものは、決して声を出してはいけない。だから、おれと一緒に絶対喋らない事を約束するのなら、見せてもいい」
「わかった。約束するから見せて欲しい」
こうして上杉の殿さまは、家来と一緒に名人の後を黙ってついて行くことになりました。
やがて足場の悪い河原に来ましたが、歩き慣れた名人はすたすたと足早に歩きます。
遅れそうになった殿さまが思わず、
「これ、ちょっと待て」
と、言おうとすると、家来があわてて言いました。
「殿、カモ取りで声を出してはなりませぬ」
「ぬっ、そうであった」
殿さまは仕方なく、黙って足を進めました。
さらにしばらく歩くと、少し向こうの岩陰にカモがいました。
「ああ、そこに、そこにカモが・・・」
殿さまが言いかけると、家来があわてて言いました。
「殿、お静かに」
「そうだった。声を出してはならぬのだな」
でも、それからもカモが何度か姿を見せたのに、カモ取り名人は見向きもしません。
不思議に思った殿さまが、
「どうして、カモを狙わぬのじゃ?」
と、言いかけて、慌てて口をつぐみました。
(しかし、声を出さないというのは、なかなか大変な事だな)
やがて名人が草の茂みで姿勢を低くしたので、殿さまも家来も同じように身をかがめて名人の後を追いました。
そして草の茂みがなくなると、そこには何百羽ものカモがいたのです。
(さすがは名人。カモのいる場所を心得ておる)
名人は、さらにはいつくばって、お尻を上げるような格好をしました。
名人と同じ格好をした殿さまと家来が名人のすぐ後ろにやって来ると、名人が殿さまの顔めがけておならを二回したのです。
「ブーッ、ブーッ」
(この無礼者!)
これにはさすがに家来が怒り出そうとしましたが、おならを顔にかけられた殿さまは反対に家来に向かって、
「しー、しー」
と、言ったのです。
それと言うのも、名人がしたおならの音をカモは仲間の声と勘違いして、どんどん近くに寄ってきたからです。
名人は鉄砲を構えると、近寄ってきたカモに放ちました。
ズドーン!
ズドーン!
たった二発の鉄砲で、名人は十羽ものカモを仕留めたのでした。
「おおっ、これは見事!」
「あっぱれ、あっぱれじゃ」
殿さまも家来も、小さな声で名人をほめました。
その後、殿さまはこのカモ取り名人に、たくさんの褒美を与えたという事です。
おしまい
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