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10月20日の世界の昔話

亡霊の恩返し

亡霊の恩返し
中国の昔話 → 中国の国情報

※本作品は、読者からの投稿作品です。 投稿希望は、メールをお送りください。→連絡先

制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】

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制作: ユメの本棚

♪音声配信(html5)
朗読 : ☆横島小次郎☆

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音声 ゲスト参加

 むかしむかし、中国の山東省(さんとうしょう)というところに、許(きょ)というお酒好きの漁師がいました。
 許は毎晩川に出かけては、さかなをとるアミをうちながらお酒を飲んでいました。
 この許のお酒の飲み方は、少し変わっています。
 まずは自分がさかずきで飲んでから、次にお酒を地面にたらして、
「まあ、お飲みなさいよ」
と、言うのです。
 実は長い間漁師をやってきた許には、川で死んだ友だちがたくさんいたのです。
 お酒を地面にたらすのは、その死んだ友だちへのささげ物だったのです。

 ある夜の事、許がさかなを取りながらお酒を飲んでいると、一人の若者が通りかかりました。
 許は、若者に声をかけました。
「いかがです。川を見ながら、一緒に飲みませんか?」
 すると若者はうれしそうに、許の横に腰をおろしました。
 その夜、二人はまるで仲の良い友だちのように、楽しくお酒をくみかわしました。
 そしてそろそろ夜が明けようとした時、許はまだ一匹もさかなを取っていない事に気づきました。
「こまったな、今からでは大して取りないし。女房に、何て言おうか」
 とりあえず少しだけでもさかなを取ろうと、許が川にアミをうちました。
 するとそのとたん、アミに信じられないほど多くのさかながかかったのです。
「これは!」
 許がビックリしていると、若者が言いました。
「ほんの、お礼のしるしです」
「お礼?」
 許は不思議な事を言う若者だなと思いましたが、さかながたくさん取れたのがうれしくて若者に何度もお礼を言いました。
 すると若者は、にっこり笑って言いました。
「いいのですよ。今まで、ずいぶんとお酒をごちそうになりましたから」
「そんなはずはないでしょう。あなたとお酒を飲んだのは、今日が初めてのはずだが」
「いいえ。今までたくさんごちそうになりました。それに、これからも友だちとしてお付き合いをさせてもらいたいので」
「おお、それはもちろんだ。・・・そうだ、あなたのお名前は?」
「わたしは、王六郎(おうろくろう)と言います」
 若者は頭を下げると、どこかへ行ってしまいました。
「不思議な若者だな・・・。おおっ、それよりさかなさかな」
 許はさっそく、とれたさかなを市場へ売りに行きました。
 取れたさかなはどれも立派なさかなばかりで、高い値段で飛ぶように売れました。

 許と若者は、それから毎晩、川で酒をくみかわしました。
 半年くらいすぎたある晩、いつものようにやってきた若者が言いました。
「今までお世話になりましたが、今日でお別れをしなくてはなりません」
「それはまた、どうしてです?」
「それは・・・」
 若者は言うべきかどうかまよいましたが、心を決めると、許をまっすぐに見て言いました。
「実は、わたしはこの川の、亡霊(ぼうれい)なのです。
 わたしはお酒がとても好きで、毎日のようにお酒を飲んでいました。
 そのために、川に転げ落ちて死んだのです。
 死んで亡霊になってもお酒が好きだったので、あなたが川岸にお酒をたらしてくださった事が、どんなにうれしかったか。
 わたしはそのお礼がしたくて、ここへやってきたのです」
「それなのに、どうしてお別れをしなくてはならないのですか? これからも一緒に、お酒を飲みましょう」
 許が言うと、若者はうれしそうに答えました。
「実は、神さまにお酒の失敗が許されて、もう一度この世に生き返る事になったのです」
「ほう、それはめでたい!」
 許がお祝いのお酒をすすめると、若者は少し悲しそうに言いました。
「しかし、わたしが生き返る代わりに、明日のお昼ごろ、誰かが川に落ちて死ぬことになっているのです」

 次の日、若者の言った事が本当かどうか、許は川へ行ってみました。
 するとそこへ赤ん坊を抱いた女の人がやってきて、あっという間に足をすベらせてしまいました。
 女の人はとっさに赤ん坊を岸へ置きましたが、女の人はそのまま急流に流されていきました。
「こまったぞ! どうやらあの女の人が、若者の代わりらしい。助けてやりたいが、そうすれば若者は生き返る事が出来ないし」
 許がウロウロしていると川の流れが急にかわって、女の人は浅瀬にうちあげられました。

 その夜、若者は川にやってきました。
「わたしには、女の人をおぼれさせる事が出来ませんでした。生き返るのはあきらめて、このまま亡霊でいる事にします」
「そうか。でもあんたは、立派だよ!」
 許は若者をなぐさめると、若者にお酒をすすめました。

 ところがそれから数日後、若者がこう言ったのです。
「許さん、今度こそ、本当にお別れです」
「なんだ? また、身代わりの人が決まったのですか?」
「いいえ。実はあの女の人を助けた事が神さまの耳に入って、わたしは遠い町の守り神になる事が決まりました。
 生き返る事は出来ませんが、生きている人の命を守る、とても大切な仕事です。
 遠い町なので、今すぐに行きます。
 あなたのご恩は、決して忘れません。
 いつまでも、お元気で」
 若者はそれっきり、川には現れませんでした。

おしまい

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