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第241話
ウィリアム・テル
スイスの昔話 → スイスの国情報
今から五百年以上もむかしの、スイスでのお話です。
その頃のスイスは、隣の国のオーストリアが支配していました。
だからどこヘ行っても、オーストリアの役人や兵士がいばっています。
ある時、オーストリアからゲスラーという役人がやって来ました。
ゲスラーは、とてもいじわるな役人です。
ゲスラーは町の広場の真ん中に長い棒を立てると、その上に一つのボウシをかかげさせました。
そして棒の横の立て札に、
《このボウシは、オーストリア皇帝のボウシである。ボウシの前を通る時は、必ずおじぎをする事。おじぎをしないものは、すぐ死刑にする》
と、書いたのです。
そこで町の人たちは仕方なしに、ボウシにおじぎをしてから広場を通りました。
さて、ある日の事、ウィリアム・テルと言う森に住む猟師が、六つになる息子を連れて広場を通りかかりました。
テルは、いつかスイスの自由を取り戻そうと思っている人です。
だからテルは、ボウシと立て札を見ても、
(この国はスイスだ。オーストリア皇帝のボウシに、おじぎをする必要はない)
と、そのまま通り過ぎようとしました。
するとすぐに見張りの兵士に捕まって、ゲスラーの前に連れて行かれました。
ゲスラーは、テルに尋ねました。
「なぜ、ボウシにおじぎをしないのだ?」
「わたしは、スイス人ですからです」
「何っ?」
「スイス人がオーストリア皇帝のボウシに、おじぎなどする必要はない!」
テルの答えに、ゲスラーは怒鳴りました。
「きさま! すぐに死刑にしてやる! ・・・いや、待てよ」
ゲスラーはテルのそばにいるテルの息子に気がついて、ニヤリと笑いました。
「死刑は許してやろう。その代わり、そこにいる息子の頭の上にリンゴを乗せて、遠くからそのリンゴを矢で撃ち落とすのだ。いいな」
それは、意地悪なゲスラーらしい思いつきでした。
「さあどうした? 自分の腕に自信がないのか? スイス人は、腰抜けだな。やらないのなら、お前も子どもも死刑にしてやるぞ」
「くっ、・・・わかった!」
テルは、決心しました。
テルは息子を木の下に立たせて頭の上にリンゴを乗せると、自分は二本の矢を取りました。
弓矢を持つテルの手が、緊張(きんちょう)のあまり震えています。
それを見た息子が、遠くの木の下からテルに叫びました。
「お父さん、ぼくは大丈夫だよ。ちっとも怖くないよ。だってぼくのお父さんは、スイス一の弓の名人だもの」
息子の言葉に勇気づけられたテルは、弓に矢をつがえると、狙いを定めて手を矢を放ちました。
ビューン!
矢は風を切ると、見事にリンゴの真ん中を撃ち抜きました。
回りで息をひそめて見ていたスイス人たちから、
「ワアーッ!」
と、大歓声があがりました。
「テル、バンザーイ」
「テルは、スイス一の弓の名人だ。バンザーイ」
それを見てゲスラーは、舌打ちをしながらテルに言いました。
「ふん、まぐれとは言え、よくやったな。だが、なぜ矢を二本も取ったのだ?」
するとテルは、ゲスラーを見つめてこう言いました。
「もう一本は、あなた用です。もし一本目を失敗して息子を死なせたら、残りの一本であなたを射殺すつもりでした」
「何だと!」
正直に答えたテルは、怒ったゲスラーら捕まえられました。
そして牢屋に入れられることになったのですが、でも途中でうまく逃げ出して、無事に息子の元へ帰ったのです。
やがてスイスはテルたちの働きで、今の様にスイス人たちの国になったのです。
おしまい
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