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百物語 第六十九話
おくびょうな男とゆうがおおばけ
むかしむかし、あるところに、たいそうおくびょうな男がいました。
夜になると、ひとりでは便所にもいけないありさまです。
いつも夜なかに、おかみさんをおこしては、
「ばけもんがでるかもしれん、すまんが、いっしょにきてくれや」
と、たのむのでした。
「ばけものなど、おりゃあせんのに、いい年をして、ほんとにこまったもんだ」
おかみさんはシブシブ、ちょうちん(→詳細)をさげて、かわや(べんじょ)へいくのですが、ねむくてかないません。
まいばん、ねぶそくがつづいていました。
「夜なかでも、ひとりでかわやにいけるように、なんとかせんならん。なにか、よいかんがえはないもんじゃろか?」
おかみさんは、あれこれかんがえました。
そしてあるとき、大きなゆうがお(ウリ科の植物で、かんぴょうのもと)の実を、こっそり、かわやのなかにぶらさげておきました。
男はそんなこと、まったく知りません。
そのばんおそく、
「ばけもんがでるかもしれん、すまんが、いっしょにきてくれや」
またまた、たのみましたが、
「ばけものなんて、おりゃあせんて。いつまでも、かわやくらい、ひとりでいけないようで、どうするね。もしものことがあれば、すぐにとんでいくから、こんやはひとりでいってみなさいな」
おかみさんは、そういって、おきようとしません。
「・・・しかたねえ。ひとりでいってくるとするか。だいじょぶかなあ?」
男はしかたなし、ひとりでかわやへでかけていきました。
かわやはまっくらです。
戸を開けてなかに入ろうとすると、ひたいになにか、ゴツンとぶつかるものがありました。
「ひえーっ! で、でたあ!」
男はビックリして、こしをぬかしてしまいました。
そこにおかみさんが、ちょうちんをさげてあらわれ、
「なにがでたっていうんです?」
かわやを、あかるくしてみせました。
「い、いま、ば、ばけもんが、そこに」
男がおそるおそる目をあけると、大きなゆうがおの実がぶらさがっていました。
「あら、ゆうがおの実じゃ、ありませんか。あしたの朝、おみおつけにしてたべましょうね」
おかみさんはつぎの朝、ゆうがおの実をきざんで、おみおつけに入れました。
「こりゃあ、うまいもんじゃのう。これがばけものなら、まいばんでてもいいや。おれはもう、おっかねえものなどない」
男はおみおつけを、三ばいもおかわりしました。
それですっかり、こわいものしらずになって、
「どこかにばけものがでたら、おれがたいじしてやる」
と、いばるようになりました。
すると、そのうち、
「村のとうげに、でっかいウシのばけものがでるそうだ。おそろしがって、夜はだれひとりとおるものがないってことだ」
村に、うわさがひろがりました。
男は、
「どうせまた、ゆうがおの実じゃろ。おれがたいじして、おみおつけにしてくってやる」
と、まっくらなとうげをのぼっていきました。
「いたいた。あいつだな」
道のまんなかに、大きなウシのばけものが、どてっとねころんで道をふさいでいます。
「やい、ばけもの。おまえはゆうがおの実だべ。おれはちっとも、おっかなくねえぞ。じゃまだから、そこをどけやい」
男がしかりつけると、
「おら、ゆうがおなんかじゃねえ」
ばけものがいいました。
「それならいったい、なにもんだ?」
「おら、かねのばんつきをしているベコ(ウシ)だ。おらがねそべってるこの下には、金がめ、銀がめ、銅がめがうずまっとるんじゃ。おら、そのことをおしえてやろうとおもっとるに、ほかのものはおそろしがって、みんなにげちまう。なのに、おまえは、ちっともおそろしがらん。金がめ、銀がめ、銅がめ、みんなおまえにやる」
ウシのばけものは、そういってきえました。
「ばけものがいったこと、ほんとだべか」
男が、ばけもののいたあたりをほりおこすと、金、銀、銅のお金がピカピカひかって、まぶしいのなんの。
男はそれをもちかえって、おかみさんと一生、しあわせにくらしました。
おしまい
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