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5月29日の日本の昔話
しかられたゆうれい
あるとき、さむらいのおくさんが、あの世へたびだっていきました。
このおくさんは、生きているときは口やかましくて、さむらいにもんくばかりいっていましたから、
「やれやれ、これで、しずかになったわい」
さむらいは、悲しさよりも、ホッとしていました。
ところがまもなく、おくさんのゆうれいがまいばんあらわれて、『ああでもない、こうでもない』と、もんくをいうのです。
とうとうさむらいは、びょうきになってしまいました。
そこで、なかまのさむらいたちが、
「ゆうれいを、おいはらってやろう」
と、かわるがわる、とまりにきてくれましたが、ゆうれいのあまりのおそろしさに、たじたじとなって、にげだしてしまいます。
さむらいのびょうきは、おもくなるばかりでした。
この話をきいて、
「よし、わしが、なんとかしよう」
としよりのさむらいが、きてくれました。
草木もねむるうしみつどき(午前二時ごろ)です。
「うらめしやあー」
びょうきでねているさむらいのまくらもとに、おくさんのゆうれいがあらわれ、またまたもんくをいいはじめました。
「だいたい、あのときあんたが・・・。それから、あれがこうで・・・」
としよりのさむらいは、だまってきいていましたが、ついにたまりかねて、
「だまりなさい! あなたは、さむらいのおくさんでありながら、なんとけしからんのだ! やることがひきょうですぞ。そんななさけないすがたを、人にみせるものではありません。死はしんせいな物であり、さむらいの美徳(びとく→ほめるべき、立派なこと)です。つつしみなさい!」
と、きびしくしかってやりました。
するとゆうれいは、きまりがわるそうに、すがたをけして、それっきりあらわれませんでした。
びょうきのさむらいは、やがてあの世へいきましたが、ゆうれいをおいかえしたとしよりのさむらいには、なんのたたりもなかったそうです。
おしまい