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日本の有名な話 第11話

ネズミ経

ネズミ経
長野県の民話 → 長野県の情報

 むかしむかし、ある山の中に、一人のおばあさんが住んでいました。

ネズミ経

 おばあさんは大変仏さまを大事にしていましたので、毎日毎晩、仏だんの前で手を合わせましたが、

ネズミ経

 お経の言葉を知りません。

 ある時、一人の坊さんがやって来て言いました。

ネズミ経

「道に迷って、困っています。どうか一晩、泊めてください」
「ああ、いいですとも」
 おばあさんは坊さんを親切にもてなしましたが、ふと気がついていいました。
「お願いです。どうか、お経の言葉を教えてください」

ネズミ経

 ところがこの坊さんはなまけ者で、お経の言葉を知りませんでした。
 でも坊さんのくせにお経を知らないともいえないので、仕方なしに仏だんの前に座ると、なんと言おうかと考えました。
 すると目の前の壁の穴から、ネズミが一匹顔を出しました。
 そこで坊さんは、

ネズミ経

「♪ネズミが一匹、顔出したあー」
と、お経の節をつけて言いました。
 すると今度は、二匹のネズミが穴から顔を出したので、

ネズミ経

「♪今度は二匹、顔出したあー」
と、坊さんは言いました。
 さて次に何と言おうかなと考えていると、三匹のネズミが穴から顔を出して、こちらを見ています。
 そこで坊さんは、

ネズミ経

「♪次には三匹、顔出したあー」
 大きな声で言うと、三匹のネズミはビックリして穴から逃げ出しました。
 そこで、

ネズミ経

「♪それからみーんな、逃げ出したあー」
 坊さんはそう言って、チーンと鐘を鳴らして言いました。
「お経は、これでおしまいです。
 少し変わったお経ですが、大変ありがたいお経です。
 毎日、今のように言えばいいのです」
 おばあさんはすっかり喜んで、それから毎朝毎晩、

ネズミ経

「♪ネズミが一匹、顔出したあー
♪今度は二匹、顔出したあー
♪次には三匹、顔出したあー
♪それからみーんな、逃げ出したあー」
と、お経をあげました。

 ある晩、三人の泥棒が、こっそりおばあさんの家に忍び込みました。
 ちょうど、おばあさんが仏だんの前でお経をあげている時でした。
「あのばあさん、何をしているのかな?」
 一人の泥棒が、おばあさんの後ろのしょうじからそっと顔を出すと、

ネズミ経

「♪ネズミが一匹、顔出したあー」
 おばあさんが、大声で言いました。
「あれっ、おれの事を言ってるのかな?」
「何をブツブツ、言ってるんだい?」
 もう一人の泥棒が、顔を出すと、

ネズミ経

「♪今度は二匹、顔出したあー」
 おばあさんが、また大きな声で言いました。
「やっぱり、おれたちの事を言ってるみたいだぞ」
「どれどれ」
 三人目の泥棒が顔を出すと、

ネズミ経

「♪次には三匹、顔出したあー」
 また、おばあさんの声がしました。
「うへぇ、あのおばあさん、後ろに目がついているんだ。こわい、こわい」

ネズミ経

  三人の泥棒はビックリして、あわてて逃げ出しました。
 そんな事は知らないおばあさんは、また、
「♪それからみーんな、逃げ出したあー」
と、大声で言うと、

ネズミ経

 チーンと鐘を鳴らして仏だんに手を合わせました。

おしまい

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