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百物語 第二十七話
百目(→詳細)
むかしむかし、春の日ざしがだいぶかたむきかかったころ。
ひとりの商人が、荷物をせおって山道をいそいでいました。
あたりはシーンとして、商人の足音だけが山の中にひびきわたります。
商人はビクビクしながら、ほそい山道を進んでいきました。
ふと前をみると、だれか先をいくものがいます。
商人はホッとして。
「やれやれ、これでやっと道づれができたわい」
いそいで追いつくと、声をかけました。
「なんとも、おみ足のおはやいことで」
「へえ」
なんと、ふりむいた男は盲目(もうもく→目の見えない人)でした。
両目とも、かたくふさがっています。
商人は、ふと思いました。
(めくらなのに、つえも持たんで、なんであんなにはやく歩けるんじゃろう)
商人は盲目のあとを歩きながら、話しかけました。
「あんたさんは、目が不自由のようですのに、よくまあ、はように歩けますなあ」
話しあいてができたうれしさに、商人はきかれもしないのに、どんどんしゃべりました。
村のまつりで反物(たんもの→衣服)を売ってもうけたこと、まつりの山車(だし→まつりなどで引く、飾りのついた車)のみごとだったこと、娘たちの着物や帯のはやりのこと、なんのかんのと、しゃべりつづけました。
盲目は、ただ、
「ふんふん、ふんふん」
と、うなずくばかりです。
山道が、ひどい石ころ道になりました。
盲目は、じょうずに石をよけながら歩いていき、商人のほうは、ついていくのがやっとです。
と、盲目が、ピタリと立ちどまりました。
(やれやれ、小便でもする気かな)
商人が、一息つこうとすると、
「ほう、こんなところにも、春がかくれておりますわい」
みょうなことをいって、盲目は身をかがめました。
商人がのぞきこむと、草のかげに、チラリとスミレの花がのぞいています。
商人はおどろきました。
(こやつ、めくらのくせに。しかもこの日ぐれがたに、よくもこんな小さな花を)
なんだか、ゾッとしてきました。
が、あわてて、つくり笑いをしながらいいました。
「おまえさんはめくらなのに、このわしよりよっぽど、よう見えるようですなあ」
すると盲目は、
「なあに、めくらというものは、なんでも見えるもんですよ」
そういって、またどんどん歩きだしました。
商人もしかたなく、あとからどんどんついていきます。
日がおちると、山の中はきゅうに暗くなりました。
商人がちょうちん(→詳細)をともすと、盲目がいいました。
「すまんことですが、あかりをちょっと、かしてもらえんでしょうか。わらじ(→詳細)のひもをむすびなおしたいんで」
「・・・? ・・・さあさあ、どうぞ」
(目が見えないのに、あかりとは?)
と、思いましたが、商人は足もとにちょうちんをさしだしてやりました。
盲目が着物のすそをまくりあげたとたん、商人は、
「ウヒャーー!」
と、さけんで、こしをぬかしてしまいました。
なんと、盲目のひざから足もとにかけて、ギラギラと光る目玉が、百もついていたそうです。
おしまい
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