|
|
百物語 第三十八話
うたうがいこつ
むかしむかし、びんぼうなある村に、六べえ(ろくべえ)と、九べえ(きゅうべえ)というわかものがいました。
ともだちどうしのふたりはある日、
「こんな村では、くらしがたたん。町へいってはたらこう」
と、村をあとにしました。
それから三ねん。
六べえはせっせとはたらいて、お金のたくわえもできましたが、九べえはあそんでばかりで、いつも一文なしです。
そんなあるとき、九べえのおかあさんがびょうきだというしらせがありました。
九べえが、六べえにわけをはなすと、
「おれは村にもどって百姓(ひゃくしょう)をする。いっしょにかえろう。おまえさんは、おっかさんのみまいにお金がいるだろうから、一両(七万円ほど)をかしてやろう」
六べえが、さいふから小判をとりだしました。
さいふにはまだ小判が、いくまいも入っています。
九べえはそれを見ると、ニヤリとわらいました。
あくる日、六べえと九べえは、いっしょに村へむかいました。
そして、とちゅうのとうげにきたときです。
九べえはいきなり、六べえを刀でさしころして、ふところのお金をうばいとり、なにくわぬかおで村にもどると、
「六ベえは酒ばかりのんでいて、すっかり人がかわってしまった。はずかしくて、村のみんなにあわせる顔がないらしい」
と、六べえのわるくちをいいふらしました。
九べえは、おかあさんのかんぴょうをしながら、ブラブラとあそんでいましたが、そのうちに、おかあさんは死んでしまうし、お金もなくなって、もとの一文なしです。
しかたなく、また町へいって、はたらくことにしました。
九べえがとうげをこえていくと、どこからか、うたごえがきこえてきました。
♪ねがいかなって、めでたやめでた。
♪すえはつるかめ、五葉の松。
♪ほーいほい、ほーいほい。
だれがうたっているのかと、よくみれば、なんと、木のえだにひっかかったしゃれこうべ(頭がいこつ)が、口をパクパクやっているのです。
「ほう。うたうがいこつとは、めずらしい。町でみせものにして、金もうけをしよう」
九べえが、しゃれこうべをつかって、町でみせもの小屋のしょうばいをしたところ、すごいにんきです。
びょうばんをきいた殿さまも、
「しゃれこうべのうたを、ぜひきいてみたい。九べえとやらを、しろによべ」
と、けらいにいいつけました。
けらいの話をきいて、九べえはニンマリ。
「こいつは、うんがむいてきた。いったい、どんなほうびがもらえることやら」
九べえは城へいくと、殿さまの前でしゃれこうべをとりだして、
「さあ、いつものうたを、きかせてくれよ」
と、いいましたが、しゃれこうべは口をむすんだきり、うんともすんともいいません。
「これ、どうした。お殿さまのまえだぞ」
しゃれこうべは、いっこうにうたいません。
殿さまはおこって、けらいにめいじました。
「その男をしばりあげて、くびをはねい!」
すると、しゃれこうべが、はじめて口をひらいて、
「殿さま、ありがとうございます。じぶんは、九べえにころされた六べえです。むねんをはらそうと、この日をまっておりました」
と、いってから、ほれぼれするこえでうたいました。
♪ねがいかなって、めでたやめでた
♪すえはつるかめ、五葉の松
♪ほーいほい、ほーいほい
おしまい
|
|
|