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百物語 第五十五話
棺の中のかま
むかしむかし、ある村に、平太郎(へいたろう)という、年とったおばあさんとふたりぐらしの男がいました。
とても、きもっ玉のふとい男で、いつもいつも自分のことを、「なんでも平気(へいき)の平太郎」と、じまんしています。
さて、ある晩のこと。
村の若いものがおおぜい集まって、きもだめしをしていました。
いろいろおそろしいことをためしたあげくに、ひとりがいいだしました。
「どうじゃ。焼き場(火葬場のこと)のお堂までいって、棺(ひつぎ→かんおけ)の中の、死人の胸にだいとる、カマ(→草刈の道具)を持ってくるもんはおらんか?」
むかしは死んだ人をすぐには焼かず、焼き場のお堂に棺に入れたまま、ひと晩おいておくならわしがありました。
そのとき、死んだ人の体に魔物が取り付かないように、魔よけのまじないとして、死人の胸にカマを持たせるのでした。
「どうした、どうした。ふだんは大口たたいとるくせに、だれもいけんのか?」
「・・・・・・」
だれも、そんな怖いことはしようとしません。
そのとき、平太郎がニヤリとわらって立ちあがると、
「そのはなし、平太郎さまがひきうけたわい」
と、言いました。
暗い夜道をどんどん歩いて、焼き場までくると、プーンと死人のにおいがします。
平太郎はお堂に入って、棺のふたを手さぐりであけると、死人の腹のあたりからカマを取り出して、そとへとびだしました。
ところがそのとき、あたりから人の声がします。
どうやら、平太郎をよんでいるようす。
(ははあん、こりゃあ、ばけもののしわざだな)
とっさに、平太郎はカマをこしにさすと、そばの松の木に、スルスルスルッとよじのぼりました。
そして、木のえだにこしかけて、ジッとようすをうかがっていました。
すると、山の下のほうから、たくさんのちょうちん(→詳細)をともした行列がやってきます。
(はて、こんな真夜中(まよなか)に葬式(そうしき)がくるなんて)
棺をかついだ行列は、
「平太郎やーい。おまえのばあさまが、死んだぞー」
そういって、木の下をとおっていきます。
(ヘへっ、やつら、うまいことばけたもんだ)
行列は焼き場の前でとまると、棺から死人をだしました。
(ありゃ。死人まで、うちのばあさまとそっくりじゃ。ばけもんも、なかなかやりおるわい)
平太郎はこわいどころか、すっかりかんしんして見ています。
行列のれんちゅうは、まきをつみあげると、ドンドンもやしました。
みんなで火の上に死人をのせると、また、ちょうちんをふりふり、もどっていきました。
(やれやれ、これですんだわい)
と、平太郎が松の木からおりようとすると、死体を焼いている火が、きゅうにゴオーーッと、もえあがりました。
そして、たきぎの上にねかされていたおばあさんの死体が、ムクムクッと、おきあがったのです。
「うん? あれはなんじゃ?」
よく見るとおばあさんではなくて、口が耳までさけた、おそろしい鬼ババにかわっていました。
鬼ババは火柱(ひばしら)の中につっ立って、平太郎をにらみつけると、クワッ! と大口をあけてわめきます。
「やい、この親不幸ものめ。おまえのおババが焼かれとるちゅうに、しらん顔しとるとは。おのれ、食うてやる!」
鬼ババは火の中からとんででると、松の木の根もとまで走ってきて、ギシギシと木をゆさぶりはじめました。
(こりゃ、おとされてはかなわん)
平太郎が木にしがみつくと、鬼ババはするどいつめで、ガリガリと木をのぼってきました。
ビックリして、平太郎は上へ上へとにげます。
にげてにげて、とうとう、てっぺんまできてしまいました。
「あっ!」
ついに、鬼ババに片足をつかまれました。
「えいっ、この鬼ババめ!」
平太郎はこしのカマをひきぬくと、鬼ババめがけて思いっきりふりおろしました。
ギャーッ!
すごい声をあげて、鬼ババはまっさかさまにおちていきます。
ドシーン!
と、大きな地ひびきがして、それっきり、動かなくなってしまいました。
あくる朝。
きもだめしのれんちゅうがやってきて、木の上でふるえている平太郎を見つけました。
みんなは平太郎の話を聞くと、そのへんをしらべてみました。
すると、なんとお堂の中に、首をカマで切られた大ダヌキが、死んでいたそうです。
おしまい
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