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日本の有名な話 第44話

ふるやのもり

ふるやのもり
鳥取県の民話 → 鳥取県の情報

 むかしむかし、雨の降る暗い晩のこと、おじいさんが子どもたちに、話を聞かせていました。
「じいさま、一番こわいもの、なんだ?」
「・・・そうだの、人間ならば、どろぼうが一番こわい」
 ちょうどその時、どろぼうがウマ小屋のウマを盗もうと、屋根裏にひそんでいました。
 どろぼうは、これを聞いてニヤリ。
(ほほう。このおれさまが、一番こわいだと)
「じいさま、けもので一番こわいもの、なんだ?」
「けものならば、・・・オオカミだの」
「じゃあ、オオカミよりこわいもの、なんだ?」
「そりゃ、ふるやのもりだ」
 ウマを食べようと、ウマ小屋にひそんでいたオオカミは、それを聞いておどろきました。
 ふるやのもりとは、古い屋根からポツリポツリともる、雨もりのことです。
 だけどオオカミは、そんなこととは知りません。
「おらよりこわい、ふるやのもりとは、いったいどんな化物だ?」
と、ガタガタふるえだしました。
 屋根裏のどろぼうも、話を聞いてヒザがガクガクふるえています。
「ふるやのもりというのは、どんな化物だ?」
と、ビクビクのところへ、ヒヤリとした雨もり(ふるやのもり)が、首にポタリと落ちました。
「ヒェーーッ! で、でたあー!」
 どろぼうは足をふみはずして、オオカミの上にドシン!
「ギャーーッ! ふ、ふるやのもりだっ!」
 オオカミはドシンドシンと、あちこちぶつかりながら、ウマ小屋から飛び出しました。
 振り落とされてはたいへんと、どろぼうは必死にオオカミにしがみつき、オオカミは振り落とそうと、メチャクチャに走り続けます。
 夜明けごろ、うまいぐあいに、つき出ている木の枝を見つけたどろぼうは、
「とりゃー!」
と、飛びついて、そのまま高い枝にかくれてしまいました。
「たっ、助かった」
 オオカミのほうは、背中にくっついていた物がとれて、ホッとひといき。
「だが、まだ安心はできん。ふるやのもりは、きっとどこかにかくれているはず。友だちの強いトラに退治(たいじ)してもらおう」
と、トラのところへ出かけました。
 話を聞いてトラも恐ろしくなりましたが、いつもいばっているオオカミの前で、そんなことはいえません。
「ふるやのもりという化け物、必ず、わしが退治してやる。安心せい」
 トラとオオカミは一緒に、ふるやのもりを探しに出かけました。
 すると高い木のてっペんに、なにやらしがみついています。
 オオカミはそれを見て、ガタガタとふるえだしました。
「あ、あれだ。あ、あれが、ふるやのもりだ」
「なに、あれがそうか。なるほど、恐ろしい顔つきをしておるわい」
 トラは、こわいのをガマンして、
「ウォーッ! ウォーッ!」
と、ほえながら木をゆさぶりました。
 すると、どろぼうが二匹の上にドシン! と落ちてきました。
「キャーン!」
「ニャーン!」
 トラとオオカミは、なさけない悲鳴をあげながら、逃げて行きました。
 どろぼうは地面に腰を打ちつけて大けがをし、オオカミは遠い山奥に逃げ、そしてトラは海を渡って遠い国まで逃げて行って、二度と帰ってはきませんでした。

おしまい

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