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1月13日の日本民話
ろくろっ首
東京都の民話
むかしむかし、江戸(えど→東京都)の堺町(さかいまち)には、いくつもの芝居小屋(しばいごや)がならんでいて、たいそうなにぎわいでした。
ある日のこと、きれいな娘が一人で、チリン、チリンと、ゲタの鈴(すず)をならして芝居小屋の前の人ごみを歩いていました。
よほど芝居好きなのか、一枚、一枚、どの小屋の絵看板(えかんばん)も、くいいるように見ながら歩いていきます。
そして気にいった役者の絵があると、その前にピタリと止まり、首がスルスルとのびていったのです。
娘はむちゅうのあまり、自分の首がのびている事には気がつきません。
ところが、通りがかりの人はビックリ。
みんな足をとめて、首ののびた娘を見ています。
娘は次々と絵看板を見ていって、中村座(なかむらざ)の前までくるとピタリと足をとめました。
だしものは、忠臣蔵(ちゅうしんぐら)です。
「力弥(りきや)もきれいじゃが、勘平(かんべい)のいいこと。それに、こっちの五段目の定九郎(さだくろう)も、ほれぼれとする男ぶり」
娘の首が絵の中の中村仲蔵(なかむらなかぞう)の定九郎(さだくろう)のところまで、すいよせられるようにのびていきました。
「おい、見ろ! またのびたぞ!」
「娘のろくろっ首だ!」
まわりは大騒ぎですが、娘はまったく気がつきません。
そして娘は何事もなかったかのように、チリン、チリンとゲタの鈴をならして、日本橋のほうへ歩いていったという事です。
おしまい