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1月15日の日本民話
龍王からおしえられた踊り
山口県の民話
むかしむかし、中村というところに、赤ちゃんの取り上げの上手なおばあさんがいました。
どんなに難産(なんざん)でも、このおばあさんの手にかかればすぐにうまれるので、『中村の取り上げばあさま』といって、知らない者はいませんでした。
ある日の真夜中、おばあさんの家の玄関(げんかん)をたたく者がいます。
こんな時間に来るのは、急産の取り上げにちがいないと思い、おばあさんはすぐに支度(したく)をすると、外へ飛び出しました。
外には、使いの男がいて、
「こんなにおそくにすまんが、一緒にきてください」
と、いいました。
「それはいいが、どこの家かいの?」
と、おばあさんがたずねると、
「ずっと遠くです。案内しますから、足元に気をつけてください」
と、男は先に立ってどんどん歩いていきます。
真暗闇(まっくらやみ)ですが、なぜか足元だけは明るいので、おばあさんはなんとか転ばずに歩けました。
そのうち波の音が聞こえてきたので、海が近いなあと思ったとたん、おばあさんは気を失ってしまいました。
おばあさんが気をとりもどすと、そこは金銀(きんぎん)まばゆい龍宮城(りゅうぐうじょう)だったのです。
おばあさんは、龍宮城の主の龍王(りゅうおう)の前に出されました。
「夜中に、遠いところごくろうであった。そちに、姫の出産のかいぞえをたのみたい」
おばあさんはビックリしましたが、お産と聞いてはジッとしていられません。
さっそく姫の部屋へいくと、ひどい難産(なんざん)で、姫の顔には血の気がありません。
「よしよし、すぐに楽にしてやるからな」
さっそくおばあさんはしたくに取りかかり、すぐに玉のような男の子が生まれました。
龍王は大喜びで、おばあさんの前にほうびとして、金銀サンゴを山のようにつみました。
けれど、おばあさんはそれを受取ろうとしません。
「お産の礼をしたいが、そちはいったい、何がほしいのじゃ? なんなりと取らせるゆえ、もうしてみるがよい」
と、いうと、おばあさんはおそるおそる答えました。
「わたくしの村にあまり雨が降らず、田んぼのイネがかれようとしています。どうか龍王さまのお力で、雨を降らせてもらいたい」
この村人を思う気持ちに感心して、龍王はその願いを聞き入れました。
「たやすいこと。今後はわしをまつって、豊年(ほうねん)おどりをおどるがよい。さすれば大雨を降らせよう」
おばあさんが龍宮城を去って村に帰りつくと、いなくなったおばあさんをさがして、村中大さわぎでした。
おばあさんがわけを話して龍王との約束をつげると、村人は大喜びです。
そして村人たちはこのおばあさんを「龍王ばあさま」と呼ぶようになりました。
その踊りが山口県に今に伝えられる、楽踊り(がくおどり)の始まりだという事です。
おしまい