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百物語 第七十一話
おらびの妖怪
高知県の民話 → 高知県情報
むかしむかし、土佐の国(とさのくに→高知県)の大きな山に、おらびという呼ばれる妖怪(ようかい)が住んでいました。
おらびというのは土地の言葉で大声を出すという意味ですが、このおらびの妖怪は山道を通りかかる人を見つけては、
「おらと、おらび比べをしろ!」
と、言うのです。
ことわっては何をされるかわからないので、多くの人はしかたなく、おらびとおらび比べをするのです。
ところが、おらびの妖怪の声はとても大きく、ひとたびほえれば、山の木々が地震みたいにゆれるのです。
とても、人間の勝てる相手ではありません。
それとこまったことに、おらび比べに負けた人間は、必ずおらびに食べられてしまうのです。
だから、この山に近づく者はめったにおらず、うわさを聞いた旅人は、わざわざ遠まわりをしてほかの山道を歩いていくのです。
さて、この山の近くに、とても気の強い猟師が住んでいました。
おらびの妖怪のおかげで仲間が山にも行けず、旅人もこまっていると聞いて、
「よし。おらが、おらびの妖怪を退治(たいじ)してやる!」
と、いって、たった一人で出かけていったのです。
山道をどんどん進んでいきますが、どうしたことか、おらびの妖怪は出てきません。
(そんなら、こっちから呼びかけてやる)
猟師は山道の途中で立ちどまると、近くの森にむかってどなりました。
「やい、おらび! おらとおらび比べをしないか!」
すると、森の奥から、
「する、する、するぞーっ! おらび比べをする」
と、いって、おらびの妖怪が出てきたのです。
牛よりも大きなウシガエルの妖怪で、のそり、のそりと近づきながら、大きな口をパクパクと開けるのです。
(これが、おらびの妖怪か)
猟師はビックリしましたが、鉄砲をかまえると、おらびの妖怪に言いました。
「おらが先にいうか? それともお前が先にいうか?」
すると、おらびの妖怪が、
「おらが先にいうぞ」
と、いって、大きな口をいっぱいに開けて、
「うおーっ!!!」
と、さけびました。
とたんに、まわりの木がガタガタとゆれだし、猟師はもう少しで気絶(きぜつ)するところでした。
(よし、いまのうちだ!)
猟師はその大きな口をめがけて、
ズドーン!
と、鉄砲の玉を打ち込みました。
どうやら、口の中が急所だったらしく、おらびの妖怪はそのまま死んでしまいました。
猟師はさっそく村へもどって、おらびの正体が大きなウシガエルであったことと、それを退治したことを話しました。
この猟師のおかげで、もう二度とおらびの妖怪は現れなかったという事です。
おしまい
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