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3月3日の日本民話

カエルの恩がえし

カエルの恩がえし
香川県の民話

 むかしむかし、ある村に、おばあさんと美しい娘が二人でくらしていました。
 ある年の田植えの季節に、おばあさんは町へ買いものにでかけました。
 帰りに田んぼのあぜ道を歩いていると、ヘビがカエルを追いつめて、今にも飲み込もうとしています。
「これこれ、何をする。許しておやり。ほしいものがあれば、わしがやるから」
 カエルをかわいそうに思っておばあさんが言うと、ヘビはおばあさんの顔を見あげながら言いました。
「それなら、娘をわしの嫁にくれるか?」
 おばあさんは、ヘビの言う事などとあまり気にもとめずに、
「よしよし。わかったから、カエルを逃がしてやるんだよ」
と、返事をしてしまったのです。
 すると、その年の秋もふかまったころ、若い(さむらい)が毎晩、娘の部屋へやってきて、夜がふけるまで娘と楽しそうに話していくようになったのです。
 そんなある日の事、一人の易者(えきしゃ)が家の前を通りました。
 おばあさんは易者を呼びとめると、娘には内緒で、毎晩のようにやってくる若い侍の事を占ってもらいました。
 すると易者は、こんな事を言いました。
「ほほう。その若い侍の正体はヘビじゃ。ほうっておくと、娘の命はなくなる。娘を救いたいのなら、裏山の松の木にワシが卵をうんでおるから、その卵を侍に取ってもらって、娘に食べさせるんじゃな」
 おばあさんはビックリして、この話を娘にしました。
 娘もおどろいて、その晩やってきた若い侍に言いました。
「実は最近、とても体がだるいのです。元気をつけるために、裏山の松の木に巣をつくっているワシの卵を取ってきて食べさせてくださいな」
「よしよし、そんな事はたやすい事よ」
 次の日、若い侍は裏山へいって、ワシの巣がある高い木にのぼっていきましたが、そのときいつの間にか若い侍はヘビの姿になっていたのです。
 そして木をよじのぼって、巣の中にある卵を口にくわえたとたん、親ワシがもどってきました。
 親ワシはするどいくちばしで、大事な卵をくわえたヘビを何度もつつきました。
 そしてヘビは頭を食いちぎられ、血だらけになって木から落ちていきました。
 そのころ、あの易者がまたおばあさんの前に現われると、おばあさんに頭を下げて言いました。
「実はわたしは、いつぞや田んぼのあぜ道で命をすくわれたカエルなのです。娘さんの体には、まだヘビの毒が残っております。これからは毎年、三月三日の節句(せっく)にお酒の中に桃の花びらを浮かべてお飲みください。そうすればヘビの毒ばかりではなく、体にたまったどんな毒もみんな消えて、きれいになりますから」
 そういうと目の前の易者の姿はたちまち消えてしまい、一匹のカエルが庭先の草むらの中へ、ピョンピョンと飛んでいったのです。
 桃の節句で、お酒の中に桃の花びらを浮かべて飲むようになったのは、この時からだという事です。

おしまい

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