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4月16日の日本民話
頭をそられた男
山梨県の民話
むかしむかし、ある村に、とても気の強い若者がいて、
「おれはキツネにだってタヌキにだって、一度もだまされたことがない。キツネやタヌキにだまされるのは、だまされる方が悪いんだ」
と、いつもいばっていました。
ある日の事、若者が村はずれの道を歩いていると、向こうから一匹のキツネがやってきました。
(ははん。さては人をだましにきたな)
若者は、あわてて草むらの中にかくれました。
キツネはあたりをキョロキョロと見ていましたが、そのうちに一枚の葉っぱを取り出すと、それを頭へのせて、ドロンと美しい娘に化けたのです。
(なるほど、たいしたものだ)
若者が感心していたら、娘に化けたキツネは道に落ちていたわらぞうりをひろいました。
すると、そのわらぞうりはごちそうを入れる重箱(じゅうばこ)にかわったのです。
重箱を持った娘は、なにくわぬ顔で村の方へと歩いていきます。
若者がこっそりあとをつけていくと、娘は長者(ちょうじゃ)さんの家に入りました。
そんな事とは知らない長者さんは、
「おう、よくきた。よくきた」
と、言って、娘をむかえたのです。
「これは、おみやげです」
娘が、わらぞうりでできた重箱を渡すと、
「それはそれは、ごていねいに」
長者さんの奥さんもニコニコして、その重箱を受けとりました。
家の外からこのようすを見ていた若者は、とうとうがまんできずに家の中へとびこむなり、
「みんな、だまされちゃいかんぞ! その娘はキツネだ!」
と、言ったのです。
でも、それを聞いた長者は、カンカンに怒りました。
「な、なんて事を言うんだ! これはとなり村の長者の娘さんで、今度わしの息子の嫁になる人だ!」
「でも、そいつはたしかにキツネだ。娘に化けるところをちゃんと見たんだ」
すると、娘は、
「キツネだなんて、あんまりです」
と、言って、シクシクと泣き出したのです。
「わしの家の嫁になる娘をキツネだなんて、もうゆるさん!」
長者は刀を抜いて、若者に切りつけようとしました。
「ひぇー、たっ、助けてくれー」
若者はあわてて逃げましたが、長者は刀を持って追いかけてきます。
そこへ、一人のお坊さんが現れました。
「おまちなさい」
お坊さんは二人のあいだに飛び込むと、長者の手をおさえました。
「どんな事があっても、人を殺してはいけません。わけを話しなさい」
そこで長者は、これまでの事をお坊さんに話しました。
「なるほどわかりました。でも、この男を殺してもしかたがないでしょう。ここは一つ、私にまかせてください」
そう言うと、お坊さんは若者をにらんで言いました。
「本当なら、殺されてもしかたのないところです。でも、お前はまだ若い。一度死んだつもりで、今から私の弟子になりなさい」
もう少しで殺されるところを助けてもらったので、若者はお坊さんのいうとおり、弟子になることを承知しました。
「よろしい。それではさっそく、頭をそってやろう」
お坊さんは長者の家でカミソリを借りると、若者の頭をそりはじめました。
ところが、その痛い事。
まるで髪の毛を手でむしり取っているみたいです。
あまりの痛さに、若者が思わず、
「やめてくれ!」
と、さけびました。
そのとたん、目の前の物がみんな消えて、若者は一人で草むらの中にすわっていたのです。
(おかしいなあ? ゆめでも見たのかな?)
そう思って、ふと頭に手をやったら、なんと髪の毛がほとんどなくなっていたのです。
娘だけでなく、長者も、お坊さんも、みんなキツネだったのです。
キツネにだまされないと言っていた若者は、みごとにキツネにだまされたのでした。
おしまい