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6月21日の日本民話
ナマズを食べない村
佐賀県の民話
むかしむかし、川上川(かわかみがわ)というところは、たくさん魚がとれる川でしたが、いつのころからか、この川にカナウという魔物がすむようになりました。
ある夏の夜、漁(りょう)をしていた一人の男が突然姿を消してしまったので、村の人たちはおそろしくなって、昼間でも川で魚をとる者はいなくなってしまいました。
カナウは、夜の川面(かわも)を火の玉のように飛びまわるといいます。
何百年も生きつづけたヘビのマムシが、魔物になったものだともいわれます。
ある夜の事、近くの村から川へ魚をとりにやってきた親子がいました。
川にアミを入れると、いくらでも魚がとれます。
親子はとった魚をかます(→ワラむしろを二つ折りにして作った袋)の中に入れてひと休みしていると、暗やみの中に青白い二つの火の玉が現れて、川面すれすれに動きながら、川原にいる二人に向かってきたのです。
「おい。なんじゃ、あれは?」
父親が声をあげると大きな水音がして、火の玉は目の前で突然消えてしまいました。
親子はおそろしくなって、かますに入れた魚も持たずに、そのまま逃げ出してしまいました。
次の日の朝早く、親子はかます取りに、川原にやってきました。
魚はそのままになっていましたが、中には自分たちがとったおぼえのない、大きなおなかをしたナマズが入っていたのです。
あまりにも大きなおなかをしているので、親子はその場でナマズのおなかをさいてみました。
すると、これまで見たこともない、奇妙な生きものの死体がでてきました。
村のお百姓(ひゃくしょう)が近くの畑にいたので、たずねてみると、それはカナウという、人間を食うおそろしい魔物だと教えてくれました。
「カナウはな、あんたたちを食おうとして川面を走ってきたんだ。それを淀姫(よどひめ)さまの使者(ししゃ)のこのナマズがやっつけて、あんたたちを救ってくれたんじゃろう」
と、いうのでした。
むかし、この村に淀姫さまという姫がいました。
ある時、淀姫さまは嵐(あらし)をよぶことができる、不思議な宝の玉をもらいに竜宮城(りゅうぐうじょう)へいきました。
その淀姫さまを背中にのせて遠くの海の底にある竜宮城まで運んだのが、川上川の大ナマズでした。
淀姫さまが竜宮にいった年に、川辺に淀姫さまの神社がたてられました。
このときから村の人たちは、川上川や村を守ってくれる淀姫さまの使者であるナマズを、決して食べないことにしました。
もし食べたりしたら淀姫さまの怒りにふれて、たちまちはげしい腹痛をおこして苦しみだすという事です。
おしまい