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百物語 第三十話
おさかべひめ
兵庫県の民話
あまりの美しさに白鷺城(しらさぎじょう)とよばれ、国宝であり世界遺産でもある姫路城に、古くから伝わるお話しです。
むかしむかし、このお城の天守閣(てんしゅかく)に、幽霊(ゆうれい)がすみついているとのうわさがたちました。
そのため昼間でも、天守閣には誰一人、近づきません。
ある雨の夜の事。
お城にとまりこんで、一晩中おきている役目の五人の侍(さむらい)たちが、
「幽霊の正体(しょうたい)は、何者だろう?」
と、話していました。
すると、一番若い侍が、
「わたしが、見届けてまいります」
と、ロウソクを手に、天守閣への暗い階段を登っていきました。
天守閣は、お城のてっぺんにある部屋です。
侍が天守閣に登り着くと、戸のすき間からボンヤリと、明かりがもれているではありませんか。
侍が、中の様子をうかがっていると、
「だれじゃ? そこにおるのは、だれじゃ?」
部屋の中から、声がかかりました。
侍が名前を名乗って、なぜ、ここに来たのかをありのままに話しました。
「では、お入りなさい」
侍は恐る恐る、戸を開けました。
するとそこには、女の人が一人、机の前に座っていました。
「・・・!」
侍は、声をあげそうになりました。
髪の長い女の人は、十二ひとえの着物に、赤いはかまをはいています。
美しい顔立ちですが、その顔色の青白さは、生きている人間ではありません。
「よく来ましたね。わたしはおさかべ姫。このお城の主じゃ。お前の勇気をほめて、これをとらせましょう」
おさかべ姫は侍に、かぶとの切れはしをわたしました。
「ありがとうございます」
「しかし、ここは人の来るところではありません」
「はっ」
「では、おさがりなさい」
侍は無事に天守閣を出ましたが、背中が冷や汗でグッショリです。
侍の仲間は、若い侍が無事に戻ってきたので、
「どうだ? 正体を見届けたか?」
「どんな幽霊だった?」
と、口ぐちにたずねました。
若い侍は、かぶとのきれはしを見せると、全てを仲間に話しました。
そしてその話は、さっそくお殿さまの耳に入りました。
次の朝、お殿さまは若い侍をよんで、
「おさかべ姫にもらったという、かぶとのきれはしをみせてくれ」
と、いいました。
侍が、かぶとのきれはしを差し出すと、
「ふむ。見覚えのあるきれはしじゃ。調べてみよう」
お殿さまはお城に昔から伝わっている、よろいかぶとや刀をおさめた部屋を調べました。
「やはりこれだ、これにまちがいない」
かぶとの一つのうしろのしころ(→よろいかぶとの左右から後方にたれて、あごを守る鉄製の物)が、ひきちぎられています。
きれはしをあててみると、ピッタリとあいました。
「かぶとのしころを引きちぎるとは、恐ろしい力の持ち主。おさかべ姫のたたりをうけないよう、天守閣のわきに明神(みょうじん)さまのほこらをまつろう」
このときから、姫路城ではお殿さまがかわっても、おさかべ姫を恐れて、ほこらを大切にしつづけたという事です。
おしまい
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