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世界の恩返し話 第5話
家の精
フィンランドの昔話 → フィンランドの国情報
むかしむかし、とても食いしん坊のお金持ちの主人がいました。
主人は毎日おいしいものを食べたくて、腕のいい料理人を一人やとっています。
料理人はいつも、お屋敷の広い台所で楽しく、主人のために料理を作っていました。
食いしん坊の主人は、朝食も昼食も夕食も、おいしいものばかりで大満足です。
ある日の事、料理人が夕食のスープを作っていると、かまどの中から首に袋をさげた、小さな家の精(せい)が出て来ました。
家の精は、料理人を見上げて言いました。
「あの、この袋一杯のスープがほしいんだけど」
料理人は、小さな家の精の袋一杯なら、お玉ひとすくいだと思って、お玉でスープをすくい、袋にいれようとしました。
すると家の精は、小さいくせにスープのナベをヒョイと持ちあげると、ゴクゴクゴクと、ナベいっぱいのスープを全部飲みほしてしまったのです。
そして家の精は、かまどの中に飛び込んで、あっという間に消えてしまいました。
料理人は、困ってしまいました。
それは、またスープを作っていたら、ムニエルやゆでた野菜のサラダを作る時間がなくなってしまうからです。
料理人は仕方がないので、主人に家の精の事を話して、スープ抜きの夕食をならべました。
ところが、食いしん坊の主人はカンカンです。
「今度その家の精が出てきたら、ぶんなぐってしまえ!」
でも料理人は、次の日に家の精が出て来たときにも、やはりスープを飲みほさせてしまったのです。
こんな小さな家の精をなぐるくらいなら、主人に自分がしかられた方がいいと思ったのです。
それで次の日も、スープ抜きの夕食をならべました。
主人は、テーブルをたたいて怒りました。
「今度私のスープをぬすむ家の精が出て来たら、火の中に入れて焼いてしまえ! でないと、お前はクビだぞ!」
次の日も、家の精は袋をさげて、かまどの中からやって来ました。
「この袋一杯のスープがほしいんだけど」
「でも、だんなさまにしかられるんだよ。本当に、袋一杯分ならわけてあげられるんだけど」
申しわけなさそうに料理人が言うと、家の精は、泣き出しそうな顔でいいました。
「実は、うちの子供が病気なのです。子供にスープを持って行きたいのです」
「そうか。それは大変だなあ。それなら、いるだけ持って行っていいよ」
料理人が答えると、家の精はスープのナベを持ちあげて、グイグイとスープを飲みほしてしまいました。
食いしん坊の主人はその話を聞くと、やさしい料理人の首をつかんで、屋敷の外へほうり出してしまいました。
「お前は、クビだ!」
お屋敷には、すぐに新しい料理人がやとわれました。
食いしん坊の主人は、
「家の精が現れても、絶対に何もあげてはいかん。なぐってしまえ!」
と、きびしく言いました。
新しい料理人のスープが出来あがったころ、かまどから家の精が袋をさげて出て来ました。
「この袋一杯のスープがほしいんだけど」
新しい料理人は、主人の言っていた家の精だとわかると、思いっきりポカポカとなぐりました。
家の精は大ケガをして、泣きながら、やさしかった前の料理人を探しに行きました。
そして、森でションボリとすわっている料理人を見つけると、
「やさしいあんたに、おわびとお礼をしたいんだ。今夜屋敷のあかりが消えたら、屋敷の庭に来ておくれ」
そう言うと、家の精はスーッと消えてしまいました。
夜、料理人は家の精に、屋敷に入れてもらってビックリ。
台所のかまどの中には、下へおりる階段があるのです。
その階段をおりたところには、宝石をちりばめた柱があり、その床は大理石(だいりせき)で出来ていました。
家の精は小さな箱を持ってきて、料理人に渡しました。
「この箱は願いのかなう箱だよ。ふたを開けてあんたの願いをいってごらん。きっと、かなえてくれるから」
やさしい料理人は、ふたを開けて、
「おいしい料理の作れる大ナベと、どんなにかたい物でも切れる包丁(ほうちょう)を出してください」
と、頼んでみました。
そのとたん、目の前にりっぱな大ナベと、キラリと光る包丁が現れたのです。
「ありがとう。これからも、ますますおいしい料理を作って人に喜んでもらえそうだ」
「よかったね。それからその箱は見事な台所も出せるよ。もちろん、宝石もお屋敷も、あんたの願いなら何でもかなうよ」
やさしい料理人は、家の精に何度もお礼を言って、魔法の小箱を持って屋敷を出て行きました。
その様子を、こっそり新しい料理人が見ていました。
朝になると、新しい料理人は家の精をつかまえていいました。
「やい! 今すぐ魔法の小箱を出せ! 出さないと、首をちょん切るぞ!」
家の精は小箱を出して、新しい料理人に渡しました。
新しい料理人は主人の部屋へかけて行くと、とくい顔で言いました。
「だんなさま、世界一おいしく、美しいお料理をごちそういたしましょう」
それを聞いた食いしん坊の主人は、ゴクリとつばを飲み込みました。
「よし、それが本当なら、給料を二倍にしてやろう」
新しい料理人は、さっそく小箱のふたを開けて、大声で言いました。
「世界一おいしく、美しい料理よ、出ろ!」
ところが小箱から飛び出してきたのは、棒を持った百人の家の精たちです。
「お前たちだな。悪い料理人と主人は」
百人の家の精たちは、新しい料理人と食いしん坊の主人をポカポカとなぐり、こぶだらけにしてしまいました。
おしまい
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