世界の感動話 第1話
イラスト myi ブログ sorairoiro
メスウシとライオン
インドの昔話 → インドの国情報
むかしむかしのお話しです。
一頭のメスウシが川に水を飲みに行った時、ついでに川のほとりの青い草をいっぱい食べました。
さて帰ろうとすると、不運な事に腹ぺこのライオンに会ってしまいました。
「おい、メスウシ。覚悟しろ。お前を、食べてしまうぞ!」
ライオンは、すぐに飛びかかりそうな勢いです。
メスウシは後ずさりしましたが、でも気をとりなおして考えました。
(どうせ、いつかは死ぬのです。それなら、わたしを欲しがっているライオンに、わたしの体をやって死ぬのが、立派な死に方かもしれない)
メスウシは、ライオンに言いました。
「どうぞ、わたしを食べてください。でも、ひとつお願いがあるのです」
「なんだ?」
「お腹を空かせている子ウシが、わたしの帰りを待っています。
どうかわたしに、おっぱいをやりに行かせてください。
すぐに、戻ってきますから」
「だめだ! 帰って来ないに、決まっている!」
「帰って来ます。
約束は、守ります。
いま子ウシに飲ませなければ、わたしのおっぱいはむだになってしまいます。
何かの役に立つという事は、とても大事な事でしょう?」
「・・・ふむ。じゃあ、行って来い。おれは、ここで待っている」
ライオンはしぶしぶながらも、しょうちしました。
メスウシは急いで家へ帰ると、子ウシを呼びました。
「さあ、おいで坊や。わたしのおっぱいを、たっぷりとお飲み」
ところが利口な子ウシは、お母さんの様子がいつもと違う事に気がつきました。
「お母さん、何か心配事があるんでしょう?
話してよ。
話してくれなければ、ぼく、おっぱいを飲まないよ」
子ウシがあまりにしんけんなので、メスウシはとうとう本当の事を話しました。
「ね、わかったでしょう。
いい子だから、はやく飲んでね。
お母さんは、ライオンとかたく約束をしたのだから」
すると子ウシは、泣き出しそうな顔でお母さんを見上げました。
「お母さん。
ぼくもお母さんと、一緒に行く。
お母さんが一人でライオンのところへ行くと思ったら、ぼく悲しくて、おっぱいを飲む事なんか出来ないよ」
メスウシは、子ウシを抱きしめました。
「お母さん」
子ウシは、言いました。
「この世の中で何かの役に立つのは、いい事だって言ったでしょう。
お母さんとぼくを食べればライオンもお腹が一杯になって、しばらくは他の動物を食べたりしないよ」
「でも、お前までが食べられるなんて・・・」
「いやだ! お母さんと一緒に行く!」
子ウシは、決してメスウシのそばを離れようとはしません。
仕方なくメスウシは子ウシを連れて、ライオンのところへ急ぎました。
「ライオンさん、約束通り帰って来ました。
子ウシも、一緒です。
さあ、わたしたちを食ベてください。
あなたはお腹がペコペコでしょうが、あたしたちを食べればしばらくは他の動物を食べなくてもいいはず。
自分の体をささげて他の動物を助けるのは、大変大事な事ですから」
ライオンはメスウシの話しを、ジッと聞いていました。
その目には、なみだが浮かんでいます。
「さあ、ライオンさん、どうぞ」
「ぼくも、どうぞ」
ウシの親子はそう言うと、しずかに目をつむりました。
すると突然、ライオンはお腹を押さえるとウシの親子に言いました。
「あたっ、あいたた!
急に、お腹が痛くなってきた。
これでは何も、食べる事は出来ない。
ざんねん、ざんねん」
そしてライオンは、そのまま帰って行きました。
おしまい
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