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        世界の感動話 第20話 
         
          
         
ローザとジバル 
クロアチアの昔話 → クロアチアの国情報 
       むかしむかし、あるところに、三人の娘をもったお金もちの商人(しょうにん)がいました。 
   上の二人はわがままで、一日じゅう、おしゃれをすることばかり考えていました。 
   けれども、いちばん下のローザは、気だてのやさしいお父さん思いの娘でした。 
   お父さんは、運のわるいことがつづいて、財産をすっかりなくしてしまいました。 
   でもわずかですが、まだ遠くの町に、お金があずけてあります。 
   そこでお父さんは、お金をとりに、旅にでかけることにしました。 
   ところが上の娘たちは、お父さんがびんぼうになったって、そんなことはおかまいなしです。 
  「お父さん。おみやげには、絹(きぬ)のきものと宝石を買ってきてね」 
  と、ねだりました。 
   お父さんは、だまっている下の娘にたずねました。 
  「ローザ。おまえはなにがほしいかね?」 
  「小さなバラの花を一本ください。ほかのものは、なにもいりませんわ」 
  と、ローザはこたえました。 
   お父さんは、遠くの町まででかけました。 
   その帰りにお父さんは道にまよって、いつのまにか深い森の中へはいってしまいました。 
   あいにくの大雨で、びしょぬれです。 
   しかも運のわるいことは続くもので、強盗(ごうとう)にあって、お金もウマも荷物も、そっくりとられてしまったのです。 
   お父さんは雨の森をあてもなく、トボトボと歩いていきました。 
   ふと見ると、遠くのほうにあかりが見えます。 
   お父さんは、そのあかりをめざして歩いていきました。 
   そして、ご殿のようにりっぱな家の前にでました。 
   お父さんはヘトヘトにつかれており、しかもおなかはペコペコです。 
   思いきって、中へはいってみました。 
   そこは台所で、だれもいないのに、かまどがあかあかともえていました。 
   お父さんは、ぬれたきものをかわかすと、つぎのへやへはいってみました。 
   そこは、食堂でした。 
   だれもいないのに、テーブルには食事のしたくがしてあって、スープがおいしそうなにおいをたてていました。 
   お父さんは、もうたまらなくなって、スープを飲みはじめました。 
   するとおどろいたことに、スープを飲みおえると、いつのまにかお皿がかわって肉がでてきました。 
   こうしてお皿はつぎつぎとかわって、さいごにはコーヒーまででたのです。 
   おなかがいっぱいになったので、お父さんはとなりのへやへはいってみました。 
   そこにはりっぱなベットがあって、いつでもねられるようになっていました。 
   お父さんは絹のふとんにくるまって、朝までグッスリとねむりました。 
   あくる朝、お父さんがおきると、食堂には朝の食事ができていました。 
   お父さんは食事をすましてから、庭にでてみました。 
   そこは、いままで見たこともないほど美しい庭で、ありとあらゆる果物(くだもの)がなり、美しい花がさいていました。 
   バラの花を見たとき、お父さんはローザとのやくそくを思いだしました。 
  「そうだ。一本だけ、もらっていこう」 
   お父さんが一本のバラを、おったとたん、とつぜんおそろしいもの音がして、おそろしいすがたの魔物があらわれました。 
  「わしの家にだまってはいって、たいせつなバラをぬすむとはなにごとだ! おまえの首をヘしおってやるぞ!」 
   お父さんはおどろいて、自分のふしあわせな旅の話や、ローザとのやくそくのことをはなしました。 
   すると魔物は、こわい声でいいました。 
  「では、わしのたいせつなバラをおったかわりに、おまえのいちばんだいじなものをよこせ。下の娘のローザをつれてこい。わしの妻にする。それがいやなら、いますぐおまえの首をへしおってやる!」 
   しかたがありません。 
   お父さんは魔物に娘をつれてくると約束して、やっと家へ帰してもらいました。 
   お父さんは家に帰ると、むかえにでたローザにバラをわたして、さめざめとなきました。 
  「おとうさま。どうなさったの? どんなにびんぼうになってもいいじゃありませんか。みんなでなかよくやっていけますわ」 
  と、ローザはお父さんをなぐさめました。 
  「ああ、ローザ。えらいことになってしまったんだよ。わたしの命よりも大切なおまえが・・・。そうだ、かわいいおまえをやるくらいなら、わたしの命をとられたほうがましだ」 
   お父さんはなきながら、魔物とのやくそくをローザにはなしました。 
  「お父さん。なかないでください。わたしはお嫁にいくだけで、死ぬわけではないのでしょう。・・・それに、きっと神さまがまもってくださいますわ」 
   あくる日、お父さんはローザをつれて、魔物のご殿へでかけました。 
   ご殿では、二人ぶんの食事が用意してありました。 
   お父さんは娘とわかれの食事をして、ションボリと帰っていきました。 
   さて、一人のこされたローザは、いつ魔物がでてくるかと、ビクビクしながらご殿の中を見てまわりました。 
   魔物のご殿ですが、どのへやもどのへやも美しくかざられており、若い娘のよろこびそうなものが、いっぱいありました。 
   ご殿じゅうをさがしても、魔物はどこにもいませんでした。 
   魔物だけでなく、めしつかいのすがたも見えません。 
   けれどもどこかで見ているのか、ローザがしたいと思うことは、なんでもしてくれました。 
   ローザは、どこからともなく聞こえてくる音楽を聞きながら、夕食をたべて美しいへやでねむりました。 
   ローザが魔物にあったのは、つぎの日の朝でした。 
   ローザは、世界じゅうの花を集めたような、すばらしい花だんをさんぽしていました。 
   すると、ものすごい地ひびきがして、むこうからおそろしいすがたをした魔物が、わめきながらやってきたのです。 
   ローザはこわくてこわくて、気が遠くなりそうでした。 
   けれども魔物はローザに気がつくと、きゅうにしずかになって、ローザにやさしくいいました。 
  「こわがらないでおくれ。わしは、わるいものではない。どうか、このご殿でしあわせにくらしておくれ」 
   そして魔物は、そっといいました。 
  「ローザ、わしにキスしてくれないか?」 
   ローザは、まっさおになりました。 
   どうして、こんなおそろしい魔物にキスができるでしよう。 
   こわがるローザを見ると、魔物はかなしそうにいいました。 
  「いや、いいんだよ。いやならしかたがない。ビックリさせてすまなかった。・・・おまえが心からキスしてくれるまで、わしはいつまでもまっているよ」 
   こうしてローザは、魔物のご殿でくらしはじめました。 
   魔物は、ジバルといいました。 
   ジバルにあうのは、まい朝、八時から九時のあいだだけでした。 
   まい朝あって話をするうちに、だんだんジバルがこわくなくなりました。 
   いいえ、それどころか、ジバルにあうのがまち遠しくなってきたのです。 
   けれども、キスをする気持には、どうしてもなれません。 
   いつのまにか、一年がすぎました。 
   ローザは、家がこいしくなりました。 
  (お父さんたちは、どうしているかしら?) 
   そう思うと、もうたまらなく、お父さんの顔が見たくなりました。 
   ローザのねがいを、ジバルは聞いてくれました。 
  「そんなにあいたいのなら、いかせてあげよう。今夜はいつものようにねなさい。あしたの朝は、お父さんの家で目をさますだろう。そして帰るときは、ねる前にここに帰りたいと言えばいい。だが、あさっては、かならず帰ってきておくれ。でないと、おまえもわしも、とんでもないことになる。どうかそれだけは、わすれないでおくれ」 
   あくる朝、目をさましたローザは、なつかしいお父さんの家にいました。 
   お父さんは夢かとばかりよろこんで、ローザをだきしめます。 
   ローザは魔物のご殿でのくらしをはなして、お父さんを安心させました。 
  「お父さん。心配しないでください。ほしいものはなんでももらえますし、ジバルは見たところはおそろしい魔物ですが、とてもやさしいのです。わたくしを、それはだいじにしてくれますの」 
   二人のねえさんは、ローザのしあわせそうなようすを見て、しゃくにさわりました。 
   魔物にひどい目にあわされていると思ったのに、ローザはまるでお姫さまのように、りっぱなきものをきて、ますます美しくかがやいているからです。 
   ねえさんたちは、妹をふしあわせなめにあわせてやろうと思いました。 
   妹がやくそくの時間に帰らないと、たいへんなことになるというと、いかにもかなしそうに、こういいました。 
  「たった一日で帰るなんて、じょうだんじゃないわ。まさか、そんな親不孝なことはしないでしょうね。お父さんと魔物とどっちがだいじなの? わたしたちだって悲しいわ」 
   心のやさしいローザは、魔物とのやくそくが気になりましたが、つい一日、帰りをのばしてしまいました。 
   つぎの日の夜、ローザはジバルの顔を思い浮かべて、 
  「あしたの朝、ジバルのところへ帰ります」 
  と、いいながら目をつぶりました。 
   次の日の朝、ローザは魔物のご殿のしんだいの上で目をさましました。 
   ローザは、すぐに庭にでました。 
   でも、いつもの八時になっても、ジバルはあらわれません。 
  「ジバル、ジバル。ジバルはどこなの?」 
   ローザは大声でよびながら、庭じゅうをさがしまわりました。 
   すると、ジバルは庭のすみのしげみのかげに、死んだようにたおれていました。 
   ローザの目から、どっとなみだがあふれでました。 
  「ああ、ジバル、ゆるして。わたしのだいじなジバル」 
   ローザはなきながら、ジバルのそばにひざまずいて、キスをしました。 
   するととつぜん、ジバルのみにくい魔物の皮がおちて、世にも美しい、りっぱな若者が立ちあがったのです。 
   若者はローザを、しっかりとだきしめました。 
   ジバルは遠くの国の王子で、もう七年のあいだ、魔法をかけられていたのです。 
   そしてローザという名の娘に、心からキスをしてもらわなければ、もとのすがたにもどれなかったのです。 
   ジバル王子とローザは、お父さんと二人のねえさんといっしょに、王子の国ヘもどりました。 
   王子の魔法がとけたというしらせに、国じゅうの人びとが喜びました。 
   ジバル王子と心のやさしいローザは結婚して、いつまでもしあわせにくらしました。 
   
   このお話は、有名な『美女と野獣』の類話です。 
      おしまい 
         
         
        
       
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