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6月13日の世界の昔話
ズルタンじいさん
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むかしむかし、ズルタンという、年取ったイヌがいました。
ある日、ズルタンは飼い主のお百姓(ひゃくしょう)さん夫婦(ふうふ)が、ヒソヒソ話をしているのを聞きました。
「あのイヌは歯が一本もなくて、泥棒もつかまえられない。もう役に立たないから殺してしまおう。むだなめしを食わせるほど、家は金持ちじゃないからね」
ズルタンは悲しくなって、仲のいいオオカミに会いに行きました。
すると、オオカミが言いました。
「良い考えがある。明日、おれがあんたの飼い主の子どもをさらうから、追いかけてくるんだ。森の中であんたに子どもをわたしてやるよ。飼い主はあんたがオオカミから子どもの命をすくった思って、きっと大事にしてくれるようになるぜ」
オオカミの計画は、とてもうまくいきました。
お百姓さんもおかみさんも、ズルタンを死ぬまでかわいがり、大事にするとちかったのです。
すっかり楽な暮らしになったズルタンに、今度はオオカミがこんな事をいいました。
「あんたの飼い主のヒツジをさらうけど、この前助けてやったんだから見のがしてくれるよな」
「それはだめだ、ほかの事ならともかく、ヒツジを守るのはワシの仕事だ」
オオカミはズルタンに腹を立てました。
「よし、あした森に来い。決闘(けっとう)だ! 思い知らせてやるぞ!」
だけど、オオカミと年寄りのズルタンでは、オオカミの勝ちに決まっています。
そこでオオカミは、助太刀(すけだち)を一人つれてきてもいいといいました。
でも、ズルタンの助太刀なってくれるのは、同じ家にすんでいる、三本足のネコしかいませんでした。
ネコは歩くと足が痛いので、しっぽをピンと高く立てていました。
オオカミはイノシシに助太刀をたのみ、森の中で待ちかまえていました。
ところが、ネコのまっすぐなしっぽが長い剣に見えたのでビックリ。
「あいつを甘く見ていたな!」
「だがネコのやつ、いやにゆっくりだな。きっと石をひろいながら近づいてきているんだ」
こわくなったオオカミとイノシシは、草のしげみにかくれました。
しかし、イノシシの耳がしげみからはみ出て、ピクピクと動いています。
「あっ、ぼくの大好物のネズミだ!」
ネコが大喜びでイノシシの耳にかみつくと、イノシシはひめいを上げて逃げていきました。
オオカミはビクビクかくれているところを見られて、とてもかっこわるく思いました。
「歯が一本もなくても、あんたは強いイヌだ。もう、あんたの家のヒツジをおそうことはしないよ」
ズルタンとオオカミは、また仲なおりしました。
おしまい