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6月14日の世界の昔話
イリーサのおまんじゅう
インドの昔話 → インドの国情報
むかしむかし、あるところに、イリーサという男が住んでいました。
イリーサは大金持ちなのに、たいへんなけちんぼうです。
「けちんぼうイリーサ。大金持ちのけちんぼうイリーサ」
みんなはそういって、イリーサをからかいました。
ある日、イリーサは王さまによばれて、ご殿にいったかえりに、道ばたでおまんじゅうをたべているお百姓にあいました。
イリーサは、つばをゴクリとのみこみながらいいました。
「おいしそうだなあ。わたしに一つくれないか?」
「だんなはお金持ちでしょう。うちへかえって、たくさんつくればいいじゃないか」
そういって、お百姓は大きな口をあけて、おいしそうにパクリとたべました。
イリーサはうちにかえってきても、おまんじゅうのことばかりかんがえて、とうとう頭がいたくなって、ねこんでしまいました。
おくさんが、イリーサにききました。
「あなた、ご病気ですか? それとも心配ごとですか?」
「ちがうよ」
「わかった。ご殿で王さまに、しかられたのでしょう?」
「ちがうったら」
イリーサは小さい声で、おくさんにいいました。
「実は・・・、おまんじゅうが、たべたいんだ」
「まあ、ほっほっほ。うちはお金持ちですもの。おまんじゅうぐらい、百個でも千個でもつくりましょう。そうだ、たくさんつくって、町じゅうの人にわけてあげましょう」
おくさんはニッコリわらいましたが、イリーサは頭をブルブルと横にふりました。
「町じゅうの人だって! とんでもない! そんなにたくさんおまんじゅうをつくるなんて、わたしはぜったいはんたいだ!」
「なぜですか?」
「それだけ、メリケン粉や砂糖(さとう)がへるじゃないか。それに、たきぎだってもったいない。まったくおまえのおかげで、ますます頭がいたくなってきたよ」
「それじゃ、ご近所の人だけにしましよう。子どもたちがきっとよろこぶわ」
「だめだ、だめだ! ご近所にあげるなんて、もったいない!」
「それじゃ、うちでたべるぶんだけつくりましょう。あなたとわたしと子どもたち。それに、めしつかいにも一つずつあげましょうね」
「だめだ! めしつかいにもだなんて、もったいない」
「じゃ、あなたとわたしと子どもたちだけなら、いいでしょう?」
「ふん! 子どもになんか、やるものか」
「こまった人ね。いいわ。あなたとわたしのだけにしましょう」
「えっ? ・・・おまえもたべるのかい? そんなもったいない。わたしのだけ、一つつくればいいんだ。それと、上等の粉や砂糖なんか、つかっちゃいけないよ。みんなに知られないように、コッソリとつくるんだ。いいかい、くれぐれも一つだけだよ」
「はい、はい、はい、はい。・・・ほんとにもう、けちんぼうなんだから」
おくさんは、すっかりあきれてしまいました。
イリーサとおくさんは、こっそり七階のへやにあがって、かまどに火をつけました。
おナベの中で砂糖がとけて、おいしそうなにおいがしてくると、イリーサはソワソワして、あたりを見まわしました。
「だれも、のぞいてないだろうな」
と、いってビックリ。
見たこともない大目玉の男が、空中にさかだちして、まどからへやの中をのぞきこんでいるではありませんか。
「こらっ、あっちへ行け! おまえにわけてやるおまんじゅうなんかないからな」
イリーサがあわててどなると、男は知らん顔で、空中にあぐらをかきました。
「しつこいやつだなあ。ぜったいに、おまんじゅうはあげないぞ。そんなことをして、わたしをけむにまこうってつもりかい」
すると、モクモクモクと、ほんとうに大目玉の男のからだから煙(けむり)が出て、へやじゅうにひろがりました。
これにはさすがのイリーサも、まいりました。
「エホン、ゴホン。エホゴホン! しかたがない。小さいのを一つつくってやってくれ」
おくさんが粉をすくってナベにおとすと、「チン」と音をたてて、おまんじゅうはみるみるうちに、ナベいっぱいにふくれあがったではありませんか。
「おお、もったいない。おまえはなんてむだなことをするんだ」
イリーサは、あわてて大きなおまんじゅうをかくすと、こんどは自分で、ほんの少し粉をおとしました。
ところが、
「チーン」
おまんじゅうは、まえまりも、もっと大きくふくれてしまいました。
つくるたびに、おまんじゅうは大きく大きくふくれるばかりです。
イリーサは、まっかになってどなりました。
「しがたがない。いちばん小さいのを一つあげなさい」
おくさんは、カゴからおまんじゅうをとろうとしました。
と、ふしぎなことに、おまんじゅうは一つにくっついて、おばけのように大きくなってしまったのです。
「おまえは、へまばっかりやっている。どれ、わたしにかしてごらん」
イリーサがカゴに手をいれると、おまんじゅうは、やっぱり一つにくっついてしまいます。
「ふしぎねえ」
イリーサとおくさんは、おまんじゅうを両方から、ひっぱりっこしました。
ところが、ひっぱればひっぱるほど、おまんじゅうはくっついてしまうのです。
二人とも、もうヘトヘトにつかれてしまいました。
それでも、おまんじゅうはちぎれません。
「ええい、にくいまんじゅうめ! もう、カゴごとおまえさんにくれてやる」
腹をたてたイリーサは、おまんじゅうのはいったカゴを、ポイとまどの外になげました。
すると、大目玉の男は、
「ありがとう。さっそく町の人たちにわけてあげますよ」
と、カゴをヒョイと肩にかけて、どこかへ消えてしまいました。
「へんなやつだなあ」
「ほんとにねえ」
おくさんはニコニコして、けちんぼうでないイリーサを見ました。
「でも、あなた。よいことをしましたね」
「ああ、おなかはすいたけど、こころがあったかくなってきたよ」
イリーサは、満足そうにいいました。
おまんじゅうはたべられませんでしたが、良いことをすると、こころがあったかくなるのです。
おしまい