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        世界のわらい話 第30話 
         
          
         
アナンシと五 
ジャマイカの昔話 → ジャマイカの国情報 
       むかしむかし、ジャマイカ島に、アナンシという男がいました。 
   アナンシは、ときどき人間になったり、ときどき大きなクモになったりするのですが、とにかくわるいやつです。 
   アナンシの近くに、五という名まえの魔女(まじょ)が住んでいました。 
   五は自分の名まえが大きらいで、もっといい名まえでよんでもらいたいと思っていました。 
   でも、みんなはやっぱり五とよぶので、五はいつも腹をたてていました。 
   ある朝、アナンシは魔女の家のへいの穴から、そっと中をのぞいてみました。 
   魔女は大ナベで、魔法の草をにているところでした。 
   ナベから煙(けむり)がたちはじめると、魔女は魔法のつえをふりあげて、おそろしい呪文(じゅもん)をとなえました。 
  「五ということばをいったものは、その場で死んでしまえ」 
   それを聞いてアナンシは、ニヤリと笑いました。 
  「いいことを聞いた。こいつをうまくつかえば、ごちそうにありつけるぞ」 
   あくる朝、アナンシは小川にそった道へやってきました。 
   市場にいくものが、かならず通る道です。 
   アナンシは、サツマイモの山を五つ、道ばたにつくって、だれかが通るのをまっていました。 
   そこへ、アヒルのおくさんが通りかかりました。 
  「おはよう、色白で美しいアヒルのおくさん。ごきげんいかがですかね」 
  と、アナンシは声をかけました。 
  「ありがとうアナンシさん。おかげさまで。あなたはごきげんいかが?」 
  「ええ、それがねえ」 
  と、アナンシは、さも悲しそうな顔をして見せました。 
  「ごらんのとおり、サツマイモをつくったんですがね。頭がわるいものですから、いく山とれたかかぞえられないんですよ。すみません、かぞえてみてくれませんか?」 
  「いいですとも」 
   アヒルのおくさんは、サツマイモの山をかぞえはじめました。 
  「一、二、三、四、五」 
   アヒルのおくさんは五といったとたん、魔女ののろいにかかって、バッタリたおれて死んでしまいました。 
   アナンシは、アヒルのおくさんをまるごとペロリと、たべてしまいました。 
   そしてまた、道ばたにすわってだれかが通るのをまっていました。 
   そこへウサギのおくさんが、ながい耳をパタパタさせながら通りかかりました。 
  「おはよう、長い耳がすてきなウサギのおくさん。ごきげんいかがですか」 
  「ありがとう、アナンシさん」 
  「ねえ、しんせつなウサギのおくさん。サツマイモをつくったんですけどね。頭がわるくて、いく山とれたかかぞえられないんですよ。ひとつ、かぞえてくれませんか?」 
  「ええ、いいですとも」 
   ウサギのおくさんは、かぞえはじめました。 
  「一、二、三、四、五」 
   五といったとたん、ウサギのおくさんはバッタリたおれて死んでしまいました。 
   アナンシは、ウサギのおくさんをペロリとたいらげてしまいました。 
   アナンシは、ふくれたおなかをさすりながら、まだそこにいました。 
   しばらくすると、こんどはハトのおくさんが、きれいなピンクの足で歩きながらやってきました。 
  「おはよう、ピンクのきれいな足のハトのおくさん」 
  と、アナンシは声をかけました。 
  「おはよう、アナンシさん。ごきげんいかが?」 
  と、ハトのおくさんは、聞きました。 
  「それがねえ、ハトのおくさん」 
  と、アナンシは、悲しそうな声をだしました。 
  「わたしはバカなもんで、サツマイモをつくったのに、いく山とれたのか、かぞえられないんですよ。ねえ、おやさしいハトのおくさん。わたしのかわりにかぞえてくれませんか」 
  「ええ、いいですとも」 
   そういうと、やさしいハトのおくさんは、かわいいピンクの足でサツマイモの山にとびのりました。 
   そして、山から山へととびうつりながら、かぞえはじめました。 
  「一、二、三、四、それから、わたしの乗っているぶん」 
   アナンシは、くやしがりました。 
  「ハトのおくさん、あんたのかぞえかたはおかしいですよ」 
  「まあ、ごめんなさい、アナンシさん。それじゃ、もう一回かぞえてあげるわ」 
   ハトのおくさんは、またかぞえました。 
  「一、二、三、四、それから、わたしの乗っているぶん」 
  「ちがう、そんなかぞえかたじゃ、だめだ」 
   アナンシは、歯をギリギリいわせておこりました。 
  「ほんとうに、ごめんなさい。アナンシさん。もう一回やってみますわ」 
   やさしいハトのおくさんは、またかぞえなおしました。 
  「一、二、三、四、それから、わたしのすわっているぶん」 
   アナンシは、まっかになっておこりました。 
   そして、思わずさけびました。 
  「なんてバカなハトだ! いいか、こうやってかぞえるんだ。一、二、三、四、五」 
  『五』といったとたん、アナンシはバッタリたおれて死んでしまいました。 
      おしまい 
         
         
        
       
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