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9月9日の世界の昔話
  
  
  
  お百姓とエンマさま
  中国の昔話 → 中国の国情報
 むかしむかし、中国には、エンマさまのお祭りがありました。
   その日がくると、村の人たちはエンマさまに、たくさんのおそなえものをしたものです。
   そうすれば、エンマさまがそのお礼に、なにか得になることをしてくださると、信じていたからでした。
   ところがエンマさまは、たいそうよくばりです。
   おそなえものが多いときには、それはもうニコニコと笑いますが、すくないときには口をへの字にまげて文句をいいます。
  「けしからん! おそなえものをケチケチするのは、どこのどいつだ?」
   エンマさまは、手下の小鬼(こおに)をやって、だれがたくさんおそなえをするか、だれがケチケチするかを、しらべさせることにしました。
   小鬼は、エンマさまのお堂のそばのものかげにかくれて、一日じゅう見はりをつづけました。
   そして夜になってから、エンマさまにいいました。
  「たくさんおそなえするのは、やっぱり村一番のお金持ちですよ。ヒツジやブタを、まるごとそなえていきました。それにくらべて、一番ケチなのは、いつもこのお堂の前を通る百姓(ひゃくしょう)です。トウフと、ごはんを、ほんのチョッピリそなえていったきりですよ」
   これを聞くと、エンマさまはカンカンにおこりました。
  「うーむ。百姓め。うんとひどいめにあわせてやるぞ!」
   すると、小鬼がいいました。
  「あの百姓の作るイネが実らないように、頭がほそくて、根っこがふとくなる魔法をかけてやったらどうです?」
  「よかろう。そうすれば秋になっても米がとれずに、なきべそをかくにちがいない」
   ところが、エンマさまと小鬼の話を聞いていたものがありました。
   それは、そのお堂に住んでいる、番人のじいさんでした。
   番人のじいさんは、お百姓にその話を教えてやりました。
   すると、お百姓は笑いながら、
  「頭はほそくて、根っこはふとくか。よし、それならイネをつくるのはやめにして、サトイモをつくることにしよう」
  と、いって、さっそくサトイモをうえました。
   小鬼たちは、畑のまわりにきて、
  「頭、ヒョロヒョロ、根っこ、ムックリ」
  「頭、ヒョロヒョロ、根っこ、ムックリ」
  と、魔法の呪文をとなえました。
   すると畑のイモはムクムクと大きくなって、いつもの年の何倍もとれたのです。
   小鬼はこれを見ると、ビックリ。
   それを知ったエンマさまは、小鬼をどなりつけました。
  「このマヌケめ! 百姓めをよろこばしてどうする!」
  「へへーっ! このつぎはきっと、うまくやります。まんなかをふとく、りょうはしをほそくすれば、イモはちっともとれません。これでやってまいります」
   この話もまた、番人のじいさんが聞いていました。
   じいさんは、すぐにお百姓に教えてやりました。
   お百姓は、こんどはトウモロコシをうえました。
   小鬼は、毎日のように畑にきては、
  「りょうはし、ヒョロヒョロ。まんなか、ムックリ」
  「りょうはし、ヒョロヒョロ。まんなか、ムックリ」
  と、魔法の呪文をとなえました。
   すると、そのたびにトウモロコシはムクムクと大きくなり、その年のとり入れは、いつもの年の何十倍にもなりました。
   お百姓はそれを売って、新しいきものを買いました。
   これを見て、小鬼たちはビックリ。
   エンマさまは、カンカンです。
  「バカモノめが! ようし、こうなったら来年は、てっぺんから、つまさきまで、大木のようにふとくしてやれ」
   番人のじいさんはこの話を聞くと、また、お百姓に知らせてやりました。
   するとお百姓は、すっかり喜んで、
  「しめたっ。こんどはサトウキビをうえよう」
  と、畑いっぱいにサトウキビをうえました。
   小鬼たちは、畑のまわりにおしかけて、
  「上から下まで、ムックリ」
  「上から下まで、ムックリ」
  と、魔法の呪文をとなえました。
   するとサトウキビはムクムクふとって、たちまち林のようになりました。
   おかげでお百姓は、そのサトウキビを売ってお金持になりました。
   これを見たエンマさまは、小鬼たちのおしりを五十回もぶちました。
   小鬼たちは、泣きながらいいました。
  「どうか、かんべんしてください。これがさいごです。百姓のうえたものを、頭ムックリ、下をヒョロヒョロにしてやります。こんどこそ、やつもこうさんするでしょう」
   番人のじいさんはそれを聞くと、またもやお百姓に教えてやりました。
   お百姓は、さもうれしそうに、
  「じゃあ、こんどこそイネをつくるとしようか」
  と、いって、畑にイネをうえました。
   小鬼たちは、その畑につききりで、魔法の呪文をとなえました。
  「頭、ムックリ、下がヒョロヒョロ」
  「頭、ムックリ、下がヒョロヒョロ」
   するとイネの穂(ほ)は、見るまにムクムクとふとり、ズッシリと重くなりました。
   おかげでその年は、たくさんのお米がとれました。
   お百姓はそれを売って、ますますお金持になり、りっぱな家までつくることができたのです。
   もちろん、小鬼たちがエンマさまの怒られたのは、いうまでもありませんね。
おしまい