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10月5日の世界の昔話
  
  
  
  オンドリとひきうす
  ロシアの昔話 → ロシアの国情報
 むかしむかし、あるところに、貧乏(びんぼう)なおじいさんとおばあさんがいました。
   家にはもう、なにも食べる物がありません。
   二人は森で、ドングリをひろって食べました。
   すると、ドングリがひとつ、おばあさんの手からころがって、床のすきまから地面におちてしまいました。
   しばらくしてドングリは芽(め)をだし、たちまち大きくなって、床をつきやぶるほどになりました。
   そこでおじいさんは、床板をはずしてやりました。
   するとこんどは、天井につっかえるほど、大きくなりました。
  「かしの木よ、空にとどくほど大きくおなり」
   おじいさんは、じゃまな天井をこわしてやりました。
   かしの木は、ほんとうに空にとどくほど大きくなりました。
   あまり大きくて、上のほうは雲(くも)にかくれて見えません。
  「いったい、この木はどこまでのびているんだろう」
   そう思ったおじいさんは、かしの木を、ドンドンドンドンのぼっていきました。
   てっぺんまでのぼると、そこは雲の上でした。
   みると目の前に、小さな家があります。
   中には、一わのオンドリと、ひきうすが、ポツンとおいてあるだけです。
  「こんなあき家にオンドリをおいておくなんて、かわいそうに。このひきうすだって、まだつかえるのに」
   おじいさんはオンドリとひきうすを、だいじそうにかかえてもってかえりました。
  「おばあさん、おみやげだよ」
   おじいさんはオンドリをトリ小屋にいれ、ひきうすでドングリをひきはじめました。
   するとふしぎなことに、ひきうすをまわすたびに、パンやまんじゅうが出てくるではありませんか。
   おじいさんとおばあさんは大よろこびで、パンとまんじゅうを、おなかいっぱいにたべました。
   このひきうすのうわさは、町にもつたわりました。
   そして、このうわさを耳にしたよくばり商人(しょうにん)が、さっそく、おじいさんとおばあさんのところへやってきました。
  「ねえ、おじいさん、おばあさん。そのひきうすを売ってくれないかね。お金はいくらでもだすから」
  「とんでもない! お金を山のようにつまれても、これを売るわけにはいきません」
   朝になりました。
   ところがたいへんなことに、ひきうすがありません。
   ゆうべ、おじいさんとおばあさんがねむっているすきに、商人がぬすんでしまったのです。
  「命よりたいせつなひきうすがなくなってしまった。どうしよう?」
   おじいさんとおばあさんはガッカリして、すわりこんでしまいました。
   すると、うしろで声がしました。
  「おじいさん、おばあさん、そんなにかなしまないでください。きっと、ぼくがとりかえしてきます」
   見ると、オンドリでした。
  「ドロボウ商人め、きっとぼくがひきうすをとりかえしてみせるぞ」
   オンドリはいさましくさけぶと、とさかをピンと立てて、商人の家をめざしてとびだしていきました。
   とちゅうで、キツネにあいました。
  「オンドリさん、どこへいくの?」
  「商人の家に、ひきうすをとりかえしにいくのさ」
  「じゃ、ぼくもつれていってよ」
  「いいとも。ぼくの羽のかげにかくれていきなよ」
   オンドリは羽を大きくひろげて、キツネをかくして道をいそぎました。
   つぎに、オオカミにあいました。
  「おい、おい、オンドリくん、そんなにあわててどこへいくのさ」
  「商人の家に、ひきうすをとりかえしにいくのさ」
  「じゃ、ぼくもつれていっておくれよ」
  「いいとも。ここにかくれていきなよ」
   オンドリは、羽をひろげました。
   またすこしいくと、こんどはクマにあいました。
   クマもオンドリの羽のかげにかくれて、いっしょにいくことになりました。
   商人の家につくと、オンドリは門の上にとびのって、大きな声でさけびました。
  「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
   商人は、おこってわめきました。
  「あのオンドリをガチョウ小屋にぶちこんで、羽をむしらせてしまえ」
   だけど、オンドリだってまけていません。
   オンドリは、小さな声でいいました。
  「キツネさん、ガチョウの羽をむしっておくれよ」
   キツネはオンドリの羽のかげからとびだすと、ガチョウの羽をかたっぱしからむしりとって、森へにげていってしまいました。
   オンドリはまた、門の上にとびのって、大きな声でさけびました。
  「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
   商人はこんどは、オンドリをウシにふみつぶさせようとしました。
   ところが、オンドリの羽のかげからオオカミがとびだして、ウシ小屋じゅうのウシをやっつけて、森へにげていきました。
   オンドリはまた、ひきうすをかえせ! とさけびました。
   カンカンにおこった商人は、こんどはオンドリをウマ小屋へいれました。
   ウマにけとばさせようと、考えたのです。
   ところが、オンドリの羽のかげからクマがとびだして、ウマを一頭のこらずたおしてくれました。
   オンドリは、また門の上にとびのってさけびました。
  「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
  「いまいましいオンドリめ、ころしてやるぞ!」
   商人はオンドリをつかまえると、首をしめて、だんろの中にほうりこんでしまいました。
   ところが、その晩のことです。
   とつぜんだんろの中で、オンドリがさけびました。
  「コケコッコー! おい商人、ひきうすをかえせ!」
  「あいつめ、まだ生きていたか!」
   商人はオンドリにとびかかろうとして、じぶんでだんろの中にとびこんでしまい、大やけどをしました。
   だんろから出たオンドリは、ひきうすをとりかえして、元気よく、おじいさんとおばあさんのところへかえっていきました。
おしまい