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11月29日の世界の昔話
  
  
  
  北風のくれたテーブルかけ
  ノルウェーの昔話 → ノルウェーの国情報
 むかしむかし、ハンスという少年が、お母さんといっしょにすんでいました。
   ある日のこと。
  「パンを焼くから、粉(こな)を持ってきて」
   お母さんにたのまれて、ハンスが小屋から粉を持ってくると、ピューーーッと、北風が粉をふき飛ばしてしまいました。
  「あっ! 粉を返せえ!」
   ハンスが北風を追いかけていくと、雪の野原に氷のお城がたっていました。
  「北風さん、ぼくの粉を返してよ」
  「こまったな、粉はないからこのテーブルかけをやろう。『テーブルかけよ、うまいごちそう出してくれ』というと、そのとおりになるぞ」
  「わあ、どうもありがとう」
   帰りは夜になったので、ハンスは宿屋(やどや)にとまってさっそくためしてみました。
  「テーブルかけよ、うまいごちそう出してくれ」
   すると、テーブルかけの上にズラリとごちそうがならんだのです。
   ドアのすき間から見ていた宿屋のおかみさんは、
  「まあ、あのテーブルかけがあれば、毎日ごちそうが食べられるねえ」
   夜中にこっそり、ハンスのテ一ブルかけを、ただのテーブルかけとすりかえたのです。
   ハンスは家に帰って、お母さんにごちそうを出してあげようと思いました。
  「テ一ブルかけよ、うまいごちそう出してくれ」
   ところがテーブルかけは、ごちそうどころか、パン一切れもだしてくれません。
   ハンスはもう一度、北風のところへ出かけました。
  「北風さん、テーブルかけは返すから、粉を返してよ」
  「よわったな、ではこのヒツジをやろう。『ヒツジよ、ヒツジ、金貨をはきだせ』というと、そのとおりになるぞ」
  「わあ、どうもありがとう」
   帰りはやっぱり、このまえの宿屋にとまって、さっそくためしてみました。
  「ヒツジよ、ヒツジ、金貨をはき出せ」
   するとヒツジは、パラパラパラパラと、いくらでも金貨をはき出しました。
   ドアのすき間から見ていた宿屋のおかみさんは、
  「まあ、あんなヒツジがいたら、わたしゃ大金持ちだよ」
   夜中にこっそり、ハンスのヒツジを、ただのヒツジとすりかえたのです。
   ハンスは家に帰って、お母さんに金貨を出してあげようと思いました。
  「ヒツジよ、ヒツジ、金貨をはき出せ」
   ところがヒツジは金貨を出さずに、ただ、メエメエとなくばかり。
   ハンスは、もう一度北風のところへいきました。
  「北風さん、ヒツジは返すから、粉を返してよ」
  「では、つえをやろう。『つえよ、つえよ、悪いやつをぶんなぐれ』といえば、そのとおりになるぞ」
  「わあ、どうもありがとう」
   その日もハンスは、このまえの宿屋にとまりました。
   つえをしっかり抱いてベッドにはいると、おかみさんがはいってきて、
  「このつえも魔法のつえだろう。今度もただのつえとすりかえてやろう」
   おかみさんがつえをぬきとろうとしたので、ハンスはいいました。
  「つえよ、つえよ、悪いやつをぶんなぐれ」
   つえはヒラリと飛び上がって、おかみさんをバンバン、ビシビシとたたきました。
  「ヒェェェー! テーブルかけもヒツジも返すから、ゆるしておくれー!」
   おかみさんはハンスに、テーブルかけとヒツジを返しました。
  「さあ、お母さんにごちそうと金貨をだしてあげよう。おまけにこのつえがあれば、ぼくとお母さんはこわいものなしさ」
   ハンスは急いで家に帰っていきました。
おしまい