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12月20日の世界の昔話
  
  
  
  心臓を持たない巨人
  ノルウェーの昔話 → ノルウェーの国情報
 むかしむかし、七人の王子をもつ王さまがいました。
   王さまは、王子たちを心からかわいがり、朝から晩まで七人の王子にかこまれているのが、なによりも好きでした。
   さて、王子たちは大きくなると、お嫁さんがほしくなりました。
   そこである日、
  「ぼくたちは、お嫁さんをもらいたいのです。さがしにいかせてください」
  と、王さまにたのみました。
   王さまは、
  「みんないってしまうのか? 一人ぼっちになってしまったら、わしはどんなにさびしいかしれない。せめて、一番下のアシェラッドだけはのこってくれないか」
  と、いいました。
   王さまの悲しそうな顔を見ると、やさしいアシェラッド王子はお城にのこることにしました。
   にいさんたちはアシェラッドに、おまえのお嫁さんもさがしてきてあげようとやくそくしました。
   王さまはだいじな王子たちに、金や銀のぬいとりをしたりっぱなきものをあたえました。
   六人の王子たちは、ウマにまたがって旅にでました。
   王子たちは川をわたり山をこえ、六人の王女のいるお城につきました。
   王女たちは六人とも美しかったので、王子たちはすぐに結婚をもうしこみました。
   のぞみがかなって、六人の王子は六人の王女をつれて帰ることになりました。
   けれども、お城にのこしてきたおとうとのお嫁さんをさがしてやることは、すっかりわすれていました。
   さて、六人の王子と六人の王女の一行(いっこう)は、巨人の家のまえを通りかかりました。
   王子と王女たちのたのしそうな話し声を聞くと、巨人は、
  「うるさいやつらだ。ようし、あいつらをだまらせてくれよう」
  と、いって、一行をギロリとにらみしました。
   すると六人の王子と六人の王女と十二頭のウマは、たちまち石になってしまいました。
   さて、お城では王さまと一番下のアシェラッド王子が、毎日、毎日、六人の王子の帰りをまっていました。
   けれども、あんまり帰りがおそいので、王さまは心配になってきました。
  「おまえがいてくれなかったら、わたしは生きていられないだろう。おまえのにいさんたちはどうしたんだろうねえ」
  と、アシェラッドにいいました。
  「ぼくがにいさんたちをさがしてきます。それに、ぼくもお嫁さんがほしくなりました。旅にいかせてください」
  と、アシェラッド王子はたのみました。
   すると王さまは、おこっていいました。
  「お嫁さんだと? とんでもない! にいさんたちが死んでしまったかもしれないというのに、お嫁さんのことなど考えるものではない!」
   けれど、王子がなんどもなんどもたのむので、王さまはとうとう、王子を旅にだすことにしました。
   王さまは、六人の王子たちが出発するときに、お金をみんなやってしまったので、アシェラッドに持たせてやるものはなにもありません。
   アシェラッドは皮の上着と半ズボンを身につけただけで、たった一頭のこっている、かっこうのわるいウマにまたがってでかけました。
   しばらくいくと、アシェラッドは、やせこけたカラスが道ばたにたおれているのを見つけました。
  「おねがいです。食べ物をください。きっとお礼をいたします」
  と、カラスがいいました。
  「食べ物はすくないけれど、助けてやろう」
   アシェラッドは、食べ物をわけてやりました。
   アシェラッドはやがて、小川にでました。
   浅いところにサケがあがっていて、深いところへもどれないでこまっています。
   サケは、くるしそうに身をよじって、
  「おねがいです。助けてください。わたしを川のまんなかに帰してください。きっとお礼をいたします」
  と、いいました。
  「ようし、助けてやろう」
   アシェラッドはサケをつかんで、深いところへ帰してやりました。
   アシェラッドはそれから、ながいこと旅をしました。
   こんどはオオカミが、骨と皮ばかりのからだをひきずるようにして歩いてきました。
  「おねがいです。二年のあいだ、なにもたべていないんです。どうぞお助けください」
  と、オオカミがいいました。
   アシェラッドは、
  (これはきっと、ウマがほしいんだな)
  と、気がついて、
  「まってくれよ。このウマがないと、ぼくは旅がつづけられなくなってしまう」
  と、いいました。
  「では、わたしの背中に乗ればいい。いま助けてくださったら、きっとお礼をいたします」
  「・・・そうかい。まあいいよ」
   アシェラッドは、ウマをオオカミにやりました。
   オオカミはおなかがいっぱいになると、たいそう大きくなりました。
   アシェラッドがオオカミにまたがると、オオカミは風よりもはやく走りだしました。
  「この先に巨人の家があります。あなたのにいさんたちは六人とも、お嫁さんといっしょに石にかえられて庭にたっています。さあ、そこヘいきましょう」
  と、オオカミがいいました。
  「でも、ぼくも石になっちゃうだろう?」
  「いいえ、わたしのいうとおりにすればだいじょうぶです。いいですか。家の中にはお姫さまが一人います。そのお姫さまは、巨人をどうやって殺せばいいか知っています。お姫さまのいうとおりにすればいいんですよ」
   巨人の家で王子をおろすと、オオカミは帰っていきました。
   王子は巨人の家にはいりました。
   うまいぐあいに巨人はでかけていて、美しいお姫さまがたった一人いるだけです。
  「いけません! すぐにおにげなさい! ここにいては殺されますわ」
  と、お姫さまがさけびました。
   アシェラッドは、ほんとうはこわくてこわくて、すぐに逃げ出したかったのですが、でも、お姫さまに勇気のあるところを見せようと思って、わざとへいきな顔をしていいました。
  「ぼくは、巨人たいじにきたんです。巨人はどこにいますか?」
  「だめですわ。巨人を殺すことはできません。心臓(しんぞう)をもっていないのですから。さあ、巨人が帰らないうちににげてください」
   お姫さまにこういわれると、アシェラッドはなおさらつよそうにいいました。
  「石にされた兄たちを、すくわなければなりません。それになによりも、あなたをお助けしたいのです」
  「まあ、ごしんせつにありがとう。では、べッドの下にかくれていて、わたしと巨人の話を聞いていてください。でもいいですか。コトリとも音をたててはいけませんよ。巨人があなたの足の皮を、はいでしまうかもしれませんから」
   アシェラッドは、ほんとうに足の皮をはがれてしまうのではないかと思うと、足のうらがムズムズしてきました。
   でもいわれたとおり、べッドの下にもぐりこみました。
   しばらくするとズシンズシンと、大きな地ひびきをたてて、巨人が帰ってきました。
  「おや? クンクン。・・・人間のにおいがするぞ」
   巨人がいうと、お姫さまはおどろいたように言いました。
  「まあ、あなたの鼻はなんてよくきくんでしょう。さっきツグミが、人間の骨をくわえて屋根の上をとんでいるうちに、その骨をえんとつにおとしたんです。だから、人間のにおいがするんですね」
  「ふん、ツグミがね」
  と、いって、巨人はヒツジの丸焼きをかじりました。
   やがて、夜になりました。
   巨人はべッドにはいりました。
   しばらくすると、お姫さまの声が聞こえました。
  「巨人さん、もうおやすみになりましたか?」
  「いいや、まだおきてる。なぜそんなことを聞くんだ?」
  「たったひとつ、うかがいたいことがありますの」
  「なんだ?」
  「あなたは心臓を、どこにかくしていらっしゃるんですか?」
  「おまえの知ったことじゃない。だが教えてやろう。入り口のしきいの下さ」
  (ハハーン、朝になったら、さがしてやれ)
  と、べッドの下のアシェラッドはつぶやきました。
   朝になって、巨人が森ヘでかけると、すぐにアシェラッドはつるはしを持ち、お姫さまはシャべルをにぎって、しきいの下をほりました。
   ところが、ほってもほっても、心臓はでてきません。
  「じゃ、もう一度聞いてみますわ。もうひとばんがまんしてください」
  と、いって、お姫さまはしきいに土をかぶせて、きれいな花をうえました。
   アシェラッドは、べッドの下にもぐりました。
   やがて、巨人が帰ってきました。
  「クンクン。また、人間のにおいがする」
  「きょうも、ツグミが屋根の上をとんでいて、口にくわえていた人間の骨をえんとつにおとしましたの」
   巨人はヤギの丸焼きをたべて、ベッドにはいりました。
   しばらくすると、巨人の声がしました。
  「姫よ。もうねたのか?」
  「いいえ、まだですわ。どうして、そんなことをお聞きになるの?」
  「だれがしきいに花をうえたのか、教えてくれ」
  「わたしですわ。わたしのたいせつなあなたの心臓があそこにあるとうかがったものですから、花でかざりましたの」
  「いいや。あんなところにゃ、おいていない」
  「あら、じゃ、どこですの?」
  「壁の、食器だなの中さ」
   アシェラッドはべッドの下で、
  (よし、さがしてみよう)
  と、つぶやきました。
   つぎの朝、巨人が戸口からでると、すぐにアシェラッドはナイフを持ち、お姫さまはキリを持ってさがしました。
   けれども、心臓は見つかりません。
  「もう一度、聞いてみましょう」
  と、お姫さまがいいました。
   さがしたあとをかくすため、お姫さまは食器だなをきれいに花でかざりました。
   アシェラッドはまた、ベッドの下にもぐりこみました。
   やっとからだをのばしたとき、巨人が帰ってきました。
  「クンクン。今日も人間のにおいがする」
  「ツグミが、また人間の骨をくわえてきてえんとつからおとしましたのよ。あなたの鼻は、なんてよくきくんでしょう」
  と、お姫さまがいいました。
  「・・・三羽のツグミか」
  と、いって、巨人はウシの丸焼きをたべました。
   そして夜になると、べッドにはいりました。
   巨人はしばらくすると、食器だなに花をかざったのはだれかとたずねました。
  「わたしですわ。あなたの心臓のあるところと聞いたものですから、花でかざりたくなったんです」
  「あんなところにゃ、しまってない」
  と、巨人がいいました。
  「じゃ、どこですの?」
  「姫のいかれないところだ」
   巨人のへんじに、お姫さまは、
  「あなたの心臓が、あたたかくてあぶなくないところにあるとわかれば、それだけでわたしは、どんなに安心していられるかわかりません。どうか教えてください」
  と、なんどもたのみました。
  「ようし、じゃ、教えてやろう。ずっとずっと遠くの、森の中に湖がある。湖の中に島がある。その島に教会が立っている。教会の中に池がある。池の中にアヒルが泳いでいる。アヒルはタマゴを持っている。そのタマゴの中にあるんだ。かわいい姫よ。安心しておいで」
   アシェラッドはべッドの下で、
  (ふふん、すぐさがしてやるぞ)
  と、つぶやきました。
   夜があけると巨人は、森ヘいきました。
   アシェラッドは、巨人がどっちヘいくか、そっとまどからのぞきました。
   すると、外にオオカミがくらを乗せて、立っているではありませんか。
   アシェラッドはさっそく、巨人の心臓のありかをオオカミにはなしました。
  「じゃあ、わたしの背中にお乗りなさい。すぐその湖を見つけてあげますよ」
   アシェラッドはお姫さまにわかれをつげて、オオカミの背中にまたがりました。
   オオカミは、風よりもはやく走りだしました。
   こうして走っていくと、三日目に森の湖につきました。
   オオカミはアシェラッドを背中に乗せたまま、湖の中の島まで泳ぎました。
   アシェラッドは、島の教会につきました。
   ところが教会のカギは、高い塔の上にぶらさがっていてとれません。
   するとオオカミが、
  「さあ、カラスをよびなさい」
  と、いいました。
   アシェラッドがカラスをよぶと、高い空にカラスがあらわれました。
   カラスはすぐにカギをとってきて、アシェラッドにわたしました。
   アシェラッドは、教会の池を見つけました。
   池の中を、アヒルがいったりきたり泳ぎまわっていました。
   アシェラッドが手をのばすと、アヒルは池のまん中へにげました。
   アシェラッドは、なんとかアヒルをつかまえましたが、水からひきあげるときに、タマゴを池の中におちてしまいました。
  「サケをよびなさい」
  と、オオカミがいいました。
   アシェラッドがサケをよぶと、池のそこからサケがうかびあがりました。
   サケはアヒルのタマゴをとってきて、アシェラッドの手に乗せました。
  「さあ、タマゴをギュッと、にぎりなさい」
  と、オオカミがいいました。
   アシェラッドはいわれたとおりにしました。
   すると、巨人のおそろしいさけび声が聞こえてきました。
  「もっと、つよくにぎって」
  と、オオカミがいいました。
   アシェラッドがもっとつよくにぎりしめると、巨人はひめいをあげました。
   そして、くるしそうに息をはずませながら、なんでもいうことを聞くから心臓をつぶさないでくれと、たのむ声が聞こえました。
  「にいさんたちと王女たちを、もとどおりに生きかえらせろと、いうのです」
  と、オオカミが教えました。
   アシェラッドがそのとおりにいうと、石はたちまち王子や王女にもどりました。
  「さあ、もうにぎりつぶしてしまいなさい」
   オオカミのいうとおり、アシェラッドはタマゴをにぎりつぶしました。
   アシェラッドは、カラスとサケにお礼をいうと、オオカミの背中にまたがって、巨人の家へもどりました。
   アシェラッドが家へはいると、巨人はバラバラになって死んでいました。
   そして七人の王子は、七人のお嫁さんをつれてお城に帰りました。
   みんなの帰りを知った王さまは、なみだを流して喜びました。
おしまい