2月20日の日本の昔話
火事の知らせ方
むかしむかし、きっちょむさん(→詳細)と言う、とてもゆかいな人がいました。
あるばんの事です。
きっちょむさんが、かわや(→トイレ)におきると、向こうの空がまっ赤にそまっています。
「ややっ、火事かな。どのへんじゃろ? うん? あの辺りは、もしや!」
どうやら、庄屋(しょうや→詳細)さんの屋敷の辺りです。
「たっ、大変だー! すぐに、すぐに知らせに行かなくては!」
きっちょむさんは、かわやを飛び出して、はだしでかけだそうとしましたが、
「・・・いや、まてよ」
寝ていたおかみさんを起こして、まず、お湯をわかしてもらって、ていねいにひげをそりました。
それから、大事な時に着る「かみしも」を着て、たびをはいて、せんすを手にして、ゆうゆうと落ち着いて、庄屋さんの屋敷へ出かけました。
火事は、庄屋さんの屋敷のはなれでした。
まだ、誰も気がついていません。
「庄屋さん、庄屋さん。はなれが火事でございますよー」
きっちょむさんは、雨戸をしずかに叩いて、庄屋さんを呼び起こしました。
声が小さかったし、戸の叩き方もおとなしかったので、庄屋さんは、なかなか目をさましません。
「庄屋さん、庄屋さん。はなれが火事でございますよー。はやく消さないと、大変なことになりますよー」
「・・・・・・」
しばらくたってから、
「なに、火事じゃと!」
庄屋さんがやっと起きて戸を開けると、はなれはもう、ほとんどやけてしまったあとでした。
次の朝、庄屋さんはカンカンにおこって、きっちょむさんの家にやってきました。
「おまえはゆうべ、火事だというのに、なぜ、かみしもなどつけて、ゆっくりきた。しかも、あんなおとなしい知らせかただ。はなれを丸やけにしてしまったではないか。火事のときは、なにをさておいてもかけつけて、大きな声やもの音で、知らせねばだめだ!」
と、きつい文句をいいました。
「へい、次からは、そうしましょう。・・・けど庄屋さんは、いつも、『男はいざというときはおちついて、みなりもきちんとせよ』と、言っていたではありませんか」
「それも、ときとばあいじゃ! そのくらいのことをわきまえないで、どうする!」
せっかく火事を知らせてあげたのに、きっちょむさんは、おもしろくありません。
さて、それからいく日かたった、ばんのこと。
きっちょむさんは、よなかにはねおきると、丸太をかついで、庄屋さんの屋敷にかけつけました。
そして、丸太を力いっぱいふりあげて、
ドンドン! ドンドン!
と、雨戸をたたいて大声でいいました。
「火事だ! 火事だ! 火事だー!」
庄屋さんは、とびおきました。
あま戸をあけると、きっちょむさんがいます。
「火事はどこだ! おいおい、そんなにたたくな。屋敷がこわれるではないか」
すると、きっちょむさんは、丸太をほうりだして、
「ああ、くたびれた。どうです。本当に火事があったときには、今くらいの知らせ方で、いかがでしょうか?」
おしまい
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