きょうの日本民話
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4月30日の日本民話

ぼたんどうろう

牡丹灯籠(ぼたんどうろう)
京都府の民話

 むかしむかし、京の都の五条京極(ごじょうきょうごく)に、荻原新之丞(おぎわらしんのじょう)という男がすんでいました。
 まだ若い奥さんに死なれたため、毎日がさびしくてたまらず、お経をよんだり歌をつくったりして、外へも出ないで暮らしています。
 七月の十五夜の日の事、夜もふけて道ゆく人もいなくなったころ、二十才くらいの美しい女の人が、十才あまりの娘をつれて通りかかりました。
 その娘には、ぼたんの花のとうろう(→あかりをともす器具)をもたせています。
 新之丞(しんのじょう)は、美しい女の人に心をひかれて、
(ああ、天の乙女(おとめ)が、地におりてきたのだろうか)
と、つい家をとびだして、ついていきました。
 新之丞が声をかけると、女はいいました。
「たとえ月夜でも、かえる道はおそろしくてなりません。どうかわたくしを送ってくださいますか?」
「よろしければ、わが家へきて、ひと晩おとまりなさい。遠慮はいりませぬ。さあどうぞ」
 そういって新之丞は女の手をとり、家へつれてもどりました。
 新之丞が歌をよむと、女もすぐにみごとな歌でかえすので、新之丞はうれしくてたまりません。
 すっかりしたしくなって、時がたつのもわすれるうちに、東の空があかるくなりかけました。
 女はいそいそとかえっていきましたが、それからというもの、女は日がくれると必ずたずねてきました。
 ぼたんの花のとうろうを、いつも娘にもたせて。
 新之丞のほうも、毎日、女が来るのが楽しみでなりません。
 そして、二十日あまりが過ぎました。
 たまたま家のとなりに、物知りなおじいさんが住んでいました。
「はて、新之丞のところは一人きりのはずだが、毎晩若い女の声がしておる。うむ、・・・どうもあやしい」
 おじいさんはその夜、かべのすきまから新之丞の家の中をのぞきました。
 すると新之丞があかりのそばで、頭から足のさきまでそろった白いガイコツと、さしむかいですわっているのです。
 新之丞が何かしゃべると、ガイコツがうなずきます。
 手やうでの骨も、ちゃんとうごかします。
 そのうえガイコツは口のあたりから声を出して、しきりに話をしているのでした。
 あくる朝、おじいさんは新之丞の所へ行き、たずねました。
「そなたのところへ、夜ごとに女の客があるらしいが、いったい何者じゃ?」
「・・・・・・」
 新之丞は、こたえません。
 それで、昨夜見たとおりのことを話したうえで、
「近いうち、そなたの身にきっとわざわいがおこりますぞ。死んでゆうれいとなりまよい歩いているものと、あのようにつきおうておったら、精(せい)をすいつくされて、わるい病気にむしばまれます」
 これには新之丞もおどろいて、今までの事をありのままをうちあけたのでした。
「さようであったか。その女が万寿寺(まんじゅじ)のそばに住んでおるというたのなら、いってさがしてみなされ」
「はい、わかりました」
 新之丞はさっそく五条(ごじょう)から西へ、万里小路(までのこうじ)までいってさがしました。
 しかし一人として、それらしい女を知る人がありません。
 日がしずむころ、万寿寺(まんじゅじ)の境内(けいだい)へ入って休み、北のほうへ足をむけると、死者のなきがらをおさめた、たまや(→たましいをまつるお堂)が一つ、目にとまりました。
 古びたたまやで、よく見たところ、棺のふたにだれそれの息女(そくじょ→みぶんのある娘をさす言葉)なになにと、戒名(かいみょう→死者につける名前)が書きつけてありました。
 棺のわきに、おとぎぼうこ(→頭身を白い絹で小児の形に作り、黒い糸を髪として、左右に分け前方に垂らした人形)、とよばれる子どもの人形が一つ、また棺のまえには、ぼたんの花のとうろうがかかっていました。
「おお、まちがいなくこれじゃ。このおとぎぼうこが娘にばけていたのだな」
 新之丞はこわくなって、走ってにげかえりました。
 家へもどったものの、夜にまた来るかとおもうと、おそろしくてたまりませんので、となりのおじいさんの家にとめてもらいました。
 それからおじいさんに教わって東寺(とうじ)へいき、そこの修験者(しゅげんじゃ→山で修行する人)にわけをうちあけて、
「わたくしは、どうしたらよいのですか?」
と、たずねました。
「まちがいなく、新之丞殿(どの)はバケモノに精をすいとられておられますな。あと十日も、いままでどおりにしておったら、命もなくなりましょう」
 修験者はそういって、まじないのおふだを書いてくれました。
 そのおふだを家の門にはりつけたところ、美しい女も、とうろうをもった娘も、二度とすがたを見せなくなったのです。
 それから、五十日ほどが過ぎました。
 新之丞は東寺へでかけて、今日までぶじに過ごせたお礼をしました。
 この日はお供の男を一人つれていたので、東寺を出て酒を飲みましたが、お酒を飲むと、むしょうに女に会いたくなって、お供の男が止めるのも聞かず、万寿寺(まんじゅじ)へ出かけていったのです。
 万寿寺に着くと、あの女が現れ、
「毎晩、お会いしましょうと、あれほどかたくお約束をしましたのに、あなたさまの気持ちがかわってしまい、それに東寺の修験者にもじゃまをされて、ほんとうにさみしゅうございました。・・・でも、あなたさまは来てくだされました。お目にかかれて、ほんとうにうれしゅうございます。どうぞこちらへ」
「うむ、そなたにつらい思いをさせるとは、まことにすまんことをした」
 新之丞は女に手を取られて、そのまま奥のほうへつれていかれました。
 後をつけてきたおともの男は、こしをぬかすほどビックリして、
「た、たっ、大変だ! 新之丞さまが、あの女にさそいこまれて寺の墓地のほうへ!」
と、となり近所にいってまわりました。
 それで大さわぎになり、みんなして万寿寺の北がわの、たまやがあるところへいってみました。
 しかし新之丞は棺のなかへひきこまれて、白骨の上へ重なるようにして死んでいました。
 女に精を吸い取られて、新之丞は老人のようにやつれていましたが、その口には笑みが浮かんでいました。
 万寿寺では気味悪くおもって、そのたまやをべつの場所へうつしました。
 しばらくして、雨がふる夜には新之丞と若い女が、ぼたんの花のとうろうをもった娘とともに京の町を歩く姿が見られ、それを見たものは重い病気にかかるとうわさが立ちました。
 新之丞の親類(しんるい)の人たちが手厚く供養(くよう)をしましたが、たましいがまよい歩かないようになるまでには、かなりの時間がかかったという事です。

おしまい

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