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2008年 7月14日の新作昔話

絵から抜け出した子ども

絵から抜け出した子ども
兵庫県の民話

 むかしむかし、あるところに、子どものいない夫婦がいました。
「子どもが欲しい、子どもが欲しい」
と、思い続けて毎日仏さまに願ったところ、ようやく玉のような男の子を授かったのですが、病気になってしまい、五歳になる前に死んでしまったのです。
  夫婦は悲しんで悲しんで、毎日毎日、泣き暮らしていました。
  でも、ある日のこと。
「いつまで泣いていても、きりない」
「そうね、あの子の絵をかきましょう」
  夫婦は子どもの姿を絵にかいて、残すことにしたのです。
  それからというもの、父親は座敷に閉じこもって絵筆を持つと、食べることも寝ることも忘れて一心に絵をかきつづけました。
  やがて出来上がった絵は、子どもが遊ぶ姿を描いた、それは見事なできばえでした。
  二人はその絵をふすま絵にして、わが子と思って朝に晩にごはんをあげたり、話しかけたりしました。
  ある晩のこと、父親はふっと目をさますと、なにやら気になって子どもをかいたふすま絵を見ました。
  すると絵には子どもの姿はなくて、絵だけを切り取ったように白い跡が残っていたのです。
  朝になって、もう一度ふすま絵を見たときは、子どもは元通り絵の中にいました。
  そんな事が、何度もありました。
  そしてそれは決まって、月のきれいな晩でした。
  そのころ、死んだ子と同じぐらいの年の子どものいる家に、夜中に子どもが遊びにくるといううわさがたったのです。
  なんでも寝ている子どもの手をひっぱったり、髪にさわったりして、
「遊んでよ、遊んでよ」
と、言うのです。
  これを聞いた夫婦は、
「これは、きっとうちの子や」
「うちの子が、さみしがっているんや」
と、思い、ふすま絵にすずめを二羽、かきたしたのです。
  けれどもやっぱり、子どもは座敷に月あかりがさしこむと、どこかへすうーっと出ていくのです。
  ある晩、子どもはいつものように出ていって、明け方近くに絵の中に戻ろうとしました。
  そのとき、二羽のすずめが絵から羽をぱたぱたさせて、たたみにとびおりてきたのです。
  子どもは喜んで、すずめと一緒に縁側から庭におりて、夜があけるのも忘れて遊んでいました。
  そのとき、
  コケコッコー!
と、一番鳥がなきました。
  おどろいたすずめはどこかにいってしまい、子どもも急いで絵の中に戻ろうとしたのですが、庭石につまずいて、ぞうりのはなおが切れてしまったのです。
  朝になって夫婦がふすま絵を見ると、子どもは絵の中にいたものの着物は泥だらけで、ぞうりは片一方しかはいていませんでした。
  もう片一方のぞうりは、ふすま絵のはじっこに転がっており、すずめは白く形だけが残っていました。
  この子はそれからも月あかりがさしこむと絵から抜けだし、朝になると顔の向きが違っていたり、きれたぞうりを手に持っていたりしたそうです。

  この不思議な絵は、一九九五年の阪神大震災で焼けるまであったそうです。

おしまい

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