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2009年 9月2日の新作昔話

不思議な岩穴

不思議な岩穴
鹿児島県の民話

 むかしむかし、ある島に、牛をとても可愛がっている男がいました。
 いつも畑仕事が終わると、海で牛の体を洗ってあげるのです。
 ある日の事、いつものように牛を洗ったあと、男は急に眠たくなったので、岩に座ったまま、ぐっすりねむりこんでしまいました。
「モウー」
 しばらくして、ウシの鳴き声に目を覚ました男が牛の方を見てみると、なんと牛が岩穴の中へ引き込まれていくところです。
「ま、待て、おらの牛が」
 男は、あわてて牛の首のつなを引っぱりましたが、いくら引っ張ってもびくともしません。
(これはどういう事だ?)
 そう思って、ふと下を見るとどうでしょう。
 ものすごい数のアリが集まっていて、牛を運んでいるのです。
「なにくそ! アリなんかに、負けるものか!」
 男は力一杯つなを引っぱりましたが、引っ張り出すどころか、反対に自分までずるずると岩穴の中に引きずり込まれてしまいました。
(ああ、もう駄目だ!)
 そう思った時、あたりがパッと明るくなりました。
「おや、ここはどこだ?」
 なんとそこは広々とした原っぱで、きれいに耕した畑があります。
 男がぽかんとしていると、畑にいた人がそばへやってきて言いました。
「すみません。あなたがねむっている間に牛を貸してもらいました。おかげで畑を耕す事が出来ました」
 畑の人はにこやかに言ったのですが、男は怖くてたまりません。
(こんなところにいては、どんなひどい目にあわされるかもしれない)
 そこで、男は言いました。
「助けてください。牛はあげますから、わたしの命を助けてください」
 すると畑の人は、
「いやいや、命を取るなんてとんでもない。あなたが連れてきてくれた牛のおかげで、畑が耕せたのです。これは牛のお礼です。どうぞ、受け取ってください」
と、言って、たくさんのお金をくれました。
「ただし、ここで見た事は、だれにも言わないでくださいね。そのかわり、お金がなくなったらいつでも取りに来てかまいませんから」
 それから男は、牛を残して岩穴の外に出ました。
 そして男は、それから何度もお金をもらって、たちまちのうちにお金持ちになりました。
 ある日の事、男の友だちが言いました。
「お前、どうしてそんなお金持ちになったのだ?」
 すると男は、だれにも言わないという約束を忘れて、友だちに岩穴の事を話したのです。
「まさか、本当かい?」
 信じようとしない友だちに、男は言いました。
「本当だとも、よし、今から連れて行ってやる」
 男はそう言って、友だちを岩穴のところへ連れて行きました。
 するとどうでしょう。
 岩穴はいつのまにかふさがっていて、中へ入る事が出来ません。
 そんな事があってから、男はだんだんお金がなくなり、前よりもひどい貧乏になったという事です。

おしまい

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