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2011年 2月16日の新作昔話

山にいたクジラ

山にいたクジラ
和歌山県の民話

 むかしむかし、クジラが今のように海ではなくて、陸に住んでいた頃のお話です。

 山の神さまが、山の木の数を数えていました。
「ウサギ山の木は、去年よりも多くなった。タヌキ山の木も、去年よりも多くなった。さて、クジラ山の木はどうだろう?」
 山の神さまがクジラ山へ行くと、クジラ山の木が全部たおれていました。
「これは、どうした事だ? ・・・さては、クジラだな。こら、クジラ! お前、また大あばれをしたな!」
 するとクジラが、目に涙を浮かべて言いました。
「すみません、山の神さま。
 でも、あばれたのではありません。
 わたしの体が、大きすぎるのです。
 あくびをするだけで木がおれますし、くしゃみをすれば森が吹き飛ぶのです」
 それを聞いた山の神さまは、クジラの大きな体をながめて言いました。
「確かに、お前ほど体が大きくては、山に住むのは大変だな。・・・よし、ここは一つ、海の神に頼んでみるか」
 そう言って山の神さまは高い山に登ると、大きな声で海に向かって言いました。
「おおーーい! 海の神よ―! わしの所のクジラを、お前の海で預かってくれんか―!」
 するとしばらくして、海の神さまから返事が返って来ました。
「いいだろうー! だが、それならこっちも、ひとつ頼みがあるー! わしの所のイノシシが、魚たちをいじめて困っておるんだー! お前の山で、預かってくれんか―!」
 その頃はイノシシは、山ではなくて海にいたのです。
 こうして二人の神さまは相談して、クジラは山から海へ、イノシシは海から山に住む場所をかえたのでした。

 こんな事があったので、今でもクジラの肉とイノシシの肉は、似た様な味がするそうです。

おしまい

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