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2011年 11月18日の新作昔話

上の字さま

上の字さま
東京都の民話

 むかしむかし、江戸の町に、大きな侍屋敷がありました。

 ある夏の夕方の事、屋敷の主人が友だちと池に面した縁側で話をしていると、二人の前に置いてあるお菓子の器から、おまんじゅうが一つ浮かびあがったのです。
「ややっ? まんじゅうが、飛んでいったぞ!」
 二人がびっくりして飛んで行くまんじゅうを見ていると、飛んで行くまんじゅうの先には池から出てきた、たらいほどもある大きなガマガエルがいて、飛んで来たまんじゅうをパクリと飲み込んだのです。
「なんだ、あの大ガマは!? まんじゅうを吸い寄せるとは、化け物であろうか?」
 主人は刀を取ると、はだしのまま池に走っていきましたが、大ガマガエルはポチャンと池の中へ逃げてしまいました。
「逃がしたか。この池に、あんな大ガマがいるとは・・・。災いが来る前に池の水を全部抜いて、あの大ガマをやつざきにしてやろう」

 さて、その夜の事です。
 主人の夢の中に、夕方の大ガマガエルが現れました。
「先ほどは、まことに失礼しました。
 おいしそうなまんじゅうを見て、つい欲しくなってしまったのです。
 あなたさまは池の水を抜くと言われましたが、どうかそれだけはごかんべんください。
 その代わり、お屋敷が火事になった時には必ず火を防ぎますから」
「・・・・・・」
 主人がだまっていると、ガマは続けて言いました。
「それから、やけどを治すおまじないをお教えします。
 やけどをしたら薬を塗った上に、《上》という字を書いた紙をはってください。
 するとやけどは、たちまち治りますから」
「うむ、そうか。ならば、今回の事は許してやろう」
「ありがとうございます」
  大ガマガエルは何度もお礼を言って、夢から消えていきました。

 さて、それから何年かたったある日、侍の屋敷の近所で火事がおこって、みるみる炎がせまって来ました。
 このままでは侍の屋敷に火が燃えうつるのは、時間の問題です。
「これでは、屋敷をあきらめるしかない」
 主人はそう思い、せめてけが人が出ないように家の者たちを避難させようとしたところ、池の中からのっそりと、あの大ガマガエルが姿を現したのです。
 大ガマガエルは白いお腹が太鼓のようにふくらむまで池の水を吸い込むと、火が燃えうつろうとしている屋敷に『ブー!』と、吹きかけたのです。
 大ガマガエルは何度も何度も、屋敷に水をかけ続けました。
 そしてふと気がつくと、多くの家が燃えてしまった中、なんと侍の屋敷だけが、どこも焼けずに残っているではありませんか。
 大活躍をした大ガマガエルは侍にペコリと頭を下げると、また池に帰って行きました。

 この大ガマガエルの話は、たちまち江戸中の評判になりました。
 そしておまじないのお札をもらいたいと、たくさんの人が侍の屋敷へやって来るようになりました。
 大ガマガエルに教えられた《上》という文字を一字書いただけの紙切れは、『上の字さま』と呼ばれて、やけどを治すだけでなく火事を防ぐお札として、火事の多い江戸の人たちに大変喜ばれたという事です。

おしまい

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