2012年 6月11日の新作昔話
生類憐れみの令「ヒヨコを食べたネコを殺した罪」
東京都の民話
むかしむかし、江戸幕府五代将軍綱吉が、
《生き物の命を、あわれんでやらねばならない。むやみに殺した者は、重く罰する》
と、いう内容の『生類あわれみの礼』という、ひどい法律を作ったことがありました。
この法律のおかげで、犬やネコをいじめるのはもちろんの事、魚を食べても虫を殺しても罪になるのです。
さて、江戸の下町に住む、家主の兵左衛門(ひょうざえもん)が、
「やとい人の若い男が、家で飼っているネコを殺しました」
と、番所へ届け出てきました。
兵左衛門の家で働いている七兵衛(しちべえ)は、前の日に二羽のヒヨコを知り合いからもらってきて、家主の家で飼い始めたのです。
ところがすぐに、一羽が家主の家のネコに食べられてしまったのです。
「こらっ! なにをする!」
怒った七兵衛がネコをしかりつけるために叩いたところ、打ち所が悪かったのか、ネコはそのまま死んでしまいました。
家主の兵左衛門は七兵衛の話を聞いて、どうしたら良いか悩みました。
この頃は、犬やネコを殺した者は死刑になるのが当たり前だったからです。
兵左衛門はネコの飼い主の七兵衛に、泣いて頼みました。
「家主さま、お願いです。この事は秘密にしてください。でないと私は死刑です。どうか、お願いいたします」
「・・・そうは言っても」
下手に番所へ訴えれば、七兵衛はもちろんの事、主人の自分も罰せられるかもしれません。
でも、ネコを殺した事を隠しているのがばれたら、七兵衛はもっとひどい罰を与えられるのです。
「兵左衛門、すまん。かばってやりたいが、隠しているのがばれたら、わしや、わしの家族にもおとがめがあるかもしれん。許してくれ」
七兵衛は仕方なく、番所へ届け出たのです。
すぐに取り調べの役人たちが兵左衛門の家へ走ってきて、届け出に間違いがない事がわかると、七兵衛を後ろ手にしばりあげて、ろうやに連れて行きました。
そこで七兵衛は七日間、ろうやに入れられた後、役人のお裁きを受けることになりました。
「ネコを殺して死罪とはな。おれの人生もこれまでか」
七兵衛は死刑を覚悟しましたが、意外にも七兵衛へのお裁きは、
「ネコを殺した罪により、江戸の町から追放する」
と、江戸の町から追い出されただけだったのです。
これは、七兵衛が殺したネコがヒヨコの命をうばった、悪いネコだった為だといわれています。
おしまい