4月23日の世界の昔話
白雪姫
グリム童話 →グリム童話の詳細
むかしむかし、一人の心優しい女王さまが、黒檀(こくたん)の窓枠に座りながらチラチラと降ってくる雪をながめながら縫い物をしていました。
「あっ」
女王さまは、うっかり自分の指に針を刺してしまいました。
女王さまの指から流れ落ちた三滴の血が、まっ白な雪の上にまっ赤なバラのように広がりました。
それを見た女王さまは、
(もうすぐ産まれるお腹の子どもは、この雪の様に白い肌で、赤いバラの様に美しいほっぺたを持ち、そしてこの窓枠の黒檀の様に黒々とした髪を持った子どもに違いないわ)
と、思いました。
そして本当に、女王さまが思っていた様な美しい女の子が産まれたのです。
女王さまは、その女の子に『白雪姫』と名付けました。
けれども女王さまは、悲しい事に白雪姫が産まれてまもなく、おなくなりになったのです。
でも新しい女王はとてもうぬぼれが強く、大変なわがままでした。
新しい女王は、不思議な魔法の鏡を持っていました。
その魔法の鏡は、どんな質問にもちゃんと答えてくれるのです。
女王さまは毎晩一人になると、その魔法の鏡にこうたずねました。
「鏡や、鏡。壁にかかっている魔法の鏡よ。
この世界で一番美しいのは誰か、答えておくれ」
すると魔法の鏡は、いつもこう答えました。
「それは女王さま、あなたです。あなたこそが、世界で一番美しい」
それを聞いて、女王さまは満足そうに眠るのでした。
それから月日が流れて、小さかった白雪姫も七才の娘になりました。
白雪姫は大きくなるにつれて美しくなり、城中に晴れた日の太陽のような笑顔をふりまきました。
そんなある日、女王がいつものように、魔法の鏡に質問をします。
「鏡や、鏡。壁にかかっている魔法の鏡よ。
この世界で一番美しいのは誰か、答えておくれ」
すると魔法の鏡が、いつもとは違うことを言いました。
「それは女王さま、あなたです。あなたこそが、世界で一番美しい。けれども」
「けれども?」
「けれども、白雪姫の美しさが日に日に増しております。やがて白雪姫は、あなたの千倍も美しくなるでしょう」
「なっ、なんですって!」
この時、女王の心に悪い影が生まれました。
そして女王は白雪姫を見る度に、ひどくいじめるようになったのです。
でも、女王がいくらひどくいじめても、白雪姫の太陽の様な美しさはますます増すばかりです。
そして魔法の鏡も、ついにこう答えるようになりました。
「女王さまは、確かに美しい。しかし世界で一番美しいのは、太陽の様に光り輝く白雪姫です」
これを聞いた女王は、くやしさで夜も眠れなくなりました。
「許せない! 世界で一番美しいのはわたしのはず。たとえ義娘でも、絶対に許せない!」
そしてある日、女王は家来の狩人を呼んで、こう言いつけたのです。
「あの白雪姫を、森に連れて行って殺しておしまい」
「!!! ・・・姫さまをですか?」
「そうだ。そして殺した証拠として、あの子の心臓からあふれ出た血で、このハンカチをまっ赤に染めてくるのです」
「しかし・・・」
「さあ、はやくお行き!」
狩人は仕方なく、白雪姫を森の中へ連れて行きました。
そして狩人はナイフを抜いて、白雪姫の心臓に突き刺そうとしました。
しかし狩人には、太陽の様に美しい白雪姫を殺す事は出来ませんでした。
そこで狩人は白雪姫に全てを話すと、白雪姫に言いました。
「はやく、お逃げなさい! 森の奥深くへ行き、もう二度と城に戻ってはいけません!」
白雪姫を逃がした狩人はイノシシをしとめると、そのイノシシの血でハンカチをまっ赤に染めると、それを女王のところへ持って行きました。
女王は狩人が持ってきたまっ赤なハンカチを見ると、白雪姫が死んだと思って大喜びです。
「あははははは。これで世界一美しいのは、このわたしだよ」
さて、なんとか命の助かった白雪姫は、イバラの多い深い森の中を突き進んで行き、夕方になる頃に一軒の小さな家を見つけました。
「あの、すみません。誰かいませんか?」
返事がないので白雪姫が家の中に入ってみると、その家は不思議な事に、何もかもが小さい家でした。
「まるで、小さな子どものお家みたい」
まん中の部屋には白い布をかけたテーブルがあって、その上には野菜のスープとパンが小さな七枚の小さな皿に入っており、その横には同じく小さなスプーンやナイフやフォークが並べてあります。
家の二階には七つの小さなベットがあって、その上には雪のように白い麻の敷布がしいてありました。
とてもお腹が空いていた白雪姫は一階に戻ると、七人分の小さなお皿から少しずつスープやパンを食べました。
一つの皿を空っぽにするのは、悪いと思ったからです。
そしてとても疲れていたので、再び二階に行くと一つのベットに入ってみました。
けれども、どのベットも小さすぎて体に合いません。
でも七番目のベットが、何とか体に合いました。
白雪姫はそのままベットにもぐり込むと、無事に一日を過ごせた事を神さまに感謝しながらグッスリと眠ってしまいました。
その日の夜、この小さな家の主人たちが帰ってきました。
その主人たちというのが、七人の小人たちです。
小人たちの仕事は、山の岩穴から金や銀や宝石の入った石を掘り出す事です。
小人たちは家に入ると、それぞれ自分用の七つのランプに火をつけました。
そして家の中がパッと明るくなると、七人の小人たちは家の様子が変わっている事に気づきました。
まず、一人目の小人が言いました。
「誰かが、わしのイスに座ったあとがあるぞ」
次に、二番目の小人が言いました。
「誰かが、わしのスープを少し飲んだあとがあるぞ」
三番目の小人が言いました。
「誰かが、わしのパンを少し食べたあとがあるぞ」
四番目の小人が言いました。
「誰かが、わしの野菜を少し食べたあとがあるぞ」
五番目の小人が言いました。
「誰かが、わしのフォークを使ったあとがあるぞ」
六番目の小人が言いました。
「誰かが、わしのナイフを使ったあとがあるぞ」
七番目の小人が言いました。
「誰かが、わしのスプーンを使ったあとがあるぞ」
それから小人たちは二階に行くと、一番目の小人がベットのくぼんでいるのを見つけて言いました。
「誰かが、わしのベットで寝たあとがあるぞ」
二番目の小人も三番目の小人も四番目の小人も五番目の小人も六番目の小人も、ベットがくぼんでいるのを見つけました。
そして七番目の小人が、自分のベットに誰かが寝ているのを見つけたのです。
「誰かが、わしのベットで寝ているぞ」
その声に小人たちはそれぞれのランプを持ってきて、寝ている白雪姫の顔を照らしました。
白雪姫の顔を見た小人たちは、その美しさに思わずため息をつきました。
「この子は、なんてきれいなんだろう。まるでお日さまの様だ」
心優しい小人たちは白雪姫を起こさない様にランプを消すと、静かにそれぞれのベットに入っていきました。
白雪姫にベットを取られた七番目の小人は、他の小人に一時間ずつベットを貸してもらい、ほかの小人のベットで眠りました。
朝になって目を覚ました白雪姫は、周りに七人の小人がいるのを知っておどろきました。
けれども小人たちは大変親切で、ニコニコしながら白雪姫にたずねました。
「お前さんの名前は、何というのかな?」
「はい。わたしの名前は、白雪姫です」
「それでは、白雪姫。お前さんは、どうしてわしらの家に入ってきたのかな?」
「はい。それは・・・」
白雪姫は、まま母が自分を殺そうとした事。
まま母に命令された狩人が、自分を逃がしてくれた事。
そして森をさまよっているうちに、この家を見つけた事。
それらを、全て小人たちに話しました。
すると話しを聞いて、小人たちが言いました。
「それは、気の毒な事だ。
もしも、お前さんが、わしらの家の仕事を引き受けてくれるのなら、ここで暮らしてもいいよ。
・・・ああっ、仕事といっても、家の掃除や洗濯に縫い物、そして食事の用意ぐらいだがね。
どうだい、それらをきちんとしてくれるかい?」
「はい。家の仕事はきちんとやりますので、どうぞお願いします」
こうして白雪姫は、小人たちの家で暮らす事になりました。
小人たちの家で暮らす事になった白雪姫を、小人たちはとても大切にしました。
そして女王の使いが来ないかどうか、毎晩交代で見張りをしてくれたのです。
でも昼間は小人たちも仕事があるので、白雪姫は一人で留守番をしなければなりません。
そこで小人たちは、白雪姫にこう言いました。
「お前さんのまま母は、どんな質問にも答えてくれる魔法の鏡を持っていると聞く。
魔法の鏡で調べれば、お前さんがここにいる事なんてすぐにわかってしまうだろう。
夜の間はわしらが守ってやるが、昼間はくれぐれも用心をしなさいよ。
もし、誰かがこの家にやって来ても、決して中に入れてはいけないよ」
さて、魔法の鏡に自分よりも白雪姫の方が美しいと言われてから、腹が立って一度も魔法の鏡を使っていなかった女王ですが、白雪姫が死んだと思っているので、安心して魔法の鏡に言いました。
「鏡や、鏡。壁にかかっている魔法の鏡よ。
この世界で一番美しいのは誰か、答えておくれ」
すると、鏡は答えました。
「女王さまが、この国で一番美しいお方です。
ですが世界で一番美しいのは、いくつも山を越した森の中で七人の小人たちと暮らしている白雪姫です。
白雪姫は、女王さまの千倍も美しい」
「何ですって!」
白雪姫が生きていると知った女王は、とても驚きました。
魔法の鏡の言うように、この国では女王が一番美しいのですが、女王には自分が世界一でない事が許せませんでした。
「こうなれば、誰かに命じて白雪姫を!
・・・いや、他の者では白雪姫の美しさに、また白雪姫を逃がしてしまうかもしれない」
そこで女王さまは、自分で白雪姫を殺そうと考えました。
しかし美しい女王は、どこへ行っても人目に付いてしまいます。
白雪姫を殺した事がばれれば、怒った王さまに死刑にされるでしょう。
そこで女王は魔法の薬を飲んで、自分が女王だとばれないように老婆へと姿を変えたのです。
老婆に姿を変えた女王は七つの山をこえて、白雪姫の住んでいる七人の小人の家にやって来ました。
家にはカギがかかっていたので、女王が化けた老婆は家の戸を叩きました。
「もし、もし、よい品物があるのですが、どうか買ってくれませんか」
それに気づいた白雪姫が、窓から首を出しました。
「あら、おばあさん、こんにちは。よい品物って、何があるのですか?」
「はい。上等なひもがありますよ」
老婆はそう言って、色々な色に染めた絹糸であんだひもを見せました。
「まあ、きれい」
白雪姫は、
(このおばあさんなら、家の中に入れても大丈夫でしょう)
と、思い、老婆を家の中に入れました。
「黒髪のおじょうさんには、この白色が良く似合うでしょう。さあ、わたしがひとつ、その美しい黒髪に結んであげましょう」
老婆はそう言うと、ひもを持って白雪姫の後ろに立ちました。
そしてそのひもをいきなり白雪姫の首に回すと、ぐいぐいと強くしめあげたのです。
「ううっ・・・・・」
白雪姫は首をしめられて、悲鳴どころか息も出来ません。
そのうち、白雪姫は目の前が真っ暗になって、そのまま死んだように倒れてしまいました。
倒れた白雪姫を見て、老婆は大笑いです。
「あはははは。これでわたしが、世界で一番美しい女になったよ」
老婆は急いで、自分の国に帰って行きました。
それから間もなく、仕事を終えた七人の小人たちが家に帰ってきました。
小人たちは、家の中で倒れている白雪姫を見つけてびっくりです。
小人たちは白雪姫の首にひもがまきつけてあるのを見つけて、あわててそのひもをハサミで切りました。
すると白雪姫は少しずつ息を始めて、やがて意識を取り戻したのです。
元気になった白雪姫から話を聞いた小人たちは、白雪姫に言いました。
「その老婆は、女王が化けたのに違いない。
いいかい、白雪姫。
わしらがそばにいない時は、どんな人だって家の中に入れてはいけないよ」
さて、大喜びでお城に帰ってた女王は、魔法の薬で元の姿に戻ると、魔法の鏡にたずねました。
「鏡や、鏡。壁にかかっている魔法の鏡よ。
この世界で一番美しいのは誰か、答えておくれ」
すると魔法の鏡が、答えました。
「女王さまが、この国で一番美しいお方です。
ですが、世界で一番美しいのは、いくつも山を越した森の中で七人の小人たちと暮らしている白雪姫です。
白雪姫は、女王さまの千倍も美しい」
「何ですって! 白雪姫がまだ生きているだって!」
女王は、胸をかきむしってくやしがりました。
そして今度は毒を塗り込めたクシを作ると、魔法の薬で前とは別の老婆に姿を変えて、再び七つの山を越えて七人の小人の家に行くと、戸をトントントンと叩いて言いました。
「よい品物がありますが、お買いになりませんか?」
白雪姫は、中からちょっとだけ顔を出して言いました。
「あっちへ、行ってください。ここには、誰も入れない事になっているのですから」
「そう言わず、見るだけでも。ほら、上等なクシですよ」
老婆はそう言って、毒を塗り込めたクシを見せました。
「まあ、きれい」
白雪姫はここに来てから、一度も髪の毛をとかしていません。
小人の家には、クシなんてなかったのです。
白雪姫は思わず老婆を家に入れると、そのクシを買う事にしました。
「お買いくださり、ありがとうございます。
どれ、わたしが一つ、いいぐあいに髪をといて差し上げましょう」
老婆はそう言うと、白雪姫の黒髪にクシを入れました。
すると、クシの歯の間に髪の毛が入るか入らないかのうちに、クシから出てきたおそろしい毒のせいで、白雪姫は意識を失ってその場に倒れてしまったのです。
「あはははは。この毒は、ライオンも殺す猛毒さ。いくらお前でも、今度こそお終いだよ」
老婆はそう言うと、すぐに帰って行きました。
そのすぐあと、仕事を終えた七人の小人たちが、家に帰ってきました。
小人たちは家の中で倒れている白雪姫を見つけてびっくりしましたが、白雪姫の髪の毛に毒のクシがささったままなのを見つけて、すぐにクシを引き抜きました。
小人たちの手当がはやかったので、白雪姫は毒が心臓に回る前に助かったのです。
白雪姫から今日の話しを聞いた小人たちは、白雪姫にもう一度注意しました。
「いいかい、白雪姫。
誰が来ても決して中に入れてはいけないし、何を出されても受け取ってはいけないよ。
もしかすると、また毒が塗ってあるかもしれないからね」
さて、今度こそ白雪姫が死んだと思った女王は、城に帰るとさっそく魔法の鏡に言いました。
「鏡や、鏡。壁にかかっている魔法の鏡よ。
この世界で一番美しいのは誰か、答えておくれ」
すると、鏡は答えました。
「女王さまが、この国で一番美しいお方です。
ですが世界で一番美しいのは、いくつも山を越した森の中で七人の小人たちと暮らしている白雪姫です。
白雪姫は、女王さまの千倍も美しい」
「何ですって! どうして、白雪姫が生きているんだい!?」
魔法の鏡が、答えました。
「女王さまが作った毒のクシは、白雪姫の髪についている間は毒の効き目がありましたが、小人たちがクシを取ってしまったので、白雪姫は息を吹き返したのです」
「・・・なるほど、それなら毒を直接体の中に入れてやろうじゃないか。
白雪姫の大好物な、リンゴを使ってね」
女王は上等なリンゴを用意すると、特別な毒をたっぷりと塗り始めました。
その特別な毒とは、リンゴに塗りつけるとまっ赤になって、一目見ると誰でも食べたくなるほどリンゴがおいしそうに見えるのです。
女王はその毒を、リンゴの半分にだけ塗りつけました。
そして魔法の薬でまた別の老婆に姿を変えると、七つの山を越えて七人の小人たちの家へ行きました。
トントン。
老婆が家の戸を叩くと、白雪姫が窓から顔だけを出して言いました。
「どなたかは存じませんが、誰であろうと中に入れてはいけないと、七人の小人に言われているのです」
すると老婆に化けた王女は、持ってきた毒リンゴの毒を塗ったおいしそうな方を白雪姫に見せて言いました。
「いえいえ、中に入らなくてもいいんですよ。実は、このおいしいリンゴをお前さんにあげようと思ってね」
「リンゴ?」
リンゴが大好きな白雪姫は、老婆の持っているリンゴを見ました。
それは今まで見た事もないほど、赤くておいしそうなリンゴです。
でも、白雪姫は首を振って言いました。
「いいえ。どんな物でも人からもらってはいけないと、七人の小人に言われているの」
「おやおや、それは用心深い事。きっと小人たちは、毒でも塗っているのではないかと考えているのだね」
「・・・ええ、ごめんなさい」
「だけど、これは大丈夫。
まあ、ごらんなさい。
この通りに二つに切って、半分はわたしが食べてみせるから」
老婆に化けた王女はリンゴを半分に切ると、毒の塗っていない方をおいしそうに食べて見せました。
「ああっ、おいしいリンゴだね。ほら、わたしが半分食べてみせたのだから、このリンゴは安全だよ」
「ええ、そうね。それではわたしも、そのリンゴをいただくわ」
白雪姫は、毒を塗った方のリンゴを受け取りました。
そしてリンゴを一口かじったとたん、白雪姫はリンゴの毒でバッタリと倒れました。
老婆に化けた女王は窓から家に入ると、念のために倒れた白雪姫の口元に耳を近づけました。
「・・・よし、息もしていない。
今度こそ、白雪姫は死んだよ。
これらな小人だって、もう助ける事は出来ないよ。
あはははははははは」
急いで城に帰った女王は、さっそく魔法の鏡にたずねました。
「鏡や、鏡。壁にかかっている魔法の鏡よ。
この世界で一番美しいのは誰か、答えておくれ」
するとようやく、魔法の鏡は女王の望む事を言いました。
「女王さまが、この世界で一番美しいお方です」
夕方になって仕事から帰って来た小人たちは、今度も白雪姫が倒れているのを見てびっくりです。
小人たちは白雪姫を介抱しますが、白雪姫は息をしておらず、体も冷たくなっていました。
「あきらめるな! 体に傷はないから、今度も毒にやられたに違いない。髪の毛に毒のクシがついていないか調べるんだ!」
小人たちは白雪姫の髪の毛を調べると、念のために体中をきれいな水で洗ったりしましたが、白雪姫が再び生き返る事はありませんでした。
七人の小人たちは死んでしまった白雪姫の周りにすわって、三日三晩泣きくらしました。
そろそろ白雪姫を土にうめないといけないのですが、不思議な事に白雪姫は死んでも生きていた時のままに美しく、肌もきれいで顔にも赤みがありました。
「こんなにきれいな白雪姫を、土の中にうめる事なんか出来ない」
そこで小人たちは外から中が見える様にガラスの棺を作ると、その中に白雪姫の体を寝かせました。
そしてガラスの棺には金文字で《白雪姫》という名前を書き、白雪姫が王さまのお姫さまである事を書きそえておきました。
小人たちはガラスの棺を山に運ぶと、鳥や動物たちがやって来て白雪姫に別れを告げました。
一番最初に来たのはフクロウで、その次がカラス、一番最後にはハトが来ました。
さて、白雪姫は長い長い間、ガラスの棺の中に横たわっていました。
でも、いつまでたってもその体は生きている時と変わらず、まるで眠っているようにしか見えませんでした。
そんなある日、一人の王子が森に迷い込んで、七人の小人の家で一晩とまりました。
次の朝、王子はふと山に来て、そこでガラスの棺を見つけました。
近寄ってのぞいてみると、中には美しい少女が横たわっています。
しばらく我を忘れて見とれていた王子は、棺の上に金文字を読むと、小人たちに言いました。
「このガラスの棺を、わたしにゆずってくれませんか。その代わりわたしは、あなたたちの欲しい物を何でも用意しましょう」
けれども小人たちは、しずかに首を横に振りました。
「たとえ世界中のお金をみんないただいても、こればかりは差し上げられません」
「確かにそうだ。
これは、どんなお金や宝物でも代える事は出来ない。
だがわたしは、白雪姫なしには、もう生きていられない。
わたしは白雪姫に、恋をしてしまったのだ。
わたしは生きている間、白雪姫をうやまい続ける。
だから白雪姫を、わたしにゆずってほしい」
王子は小人たちに何度もお願いしましたが、小人たちは首を横に振るばかりです。
「白雪姫が生きていれば、喜んであなたにお渡ししたでしょう。
あなたなら、白雪姫を女王から守ってくれるでしょうから。
でも、白雪姫は、もう死んでしまったのです。
どうか、おあきらめください」
「・・・わかった。確かにお前たちの言う通りだ。あきらめよう。だが、生まれて初めて恋をした白雪姫に、どうか別れの口づけをさせてくれないか?」
「はい、あなたなら、白雪姫も口づけを許してくれるでしょう」
小人たちがそう言ってくれたので、王子はガラスの棺を開くと、まるで眠っている様な白雪姫に口づけをしました。
すると白雪姫の唇がわずかに動いて、白雪姫が小さなせきをしました。
そのはずみで白雪姫が飲み込んだ毒のリンゴのかけらが、白雪姫ののどから飛び出したのです。
すると毒の効き目がなくなった白雪姫の目がパッチリと開いて、白雪姫が起き上がったではありませんか。
「まあ、わたしは、どこにいるんでしょう?」
不思議そうに辺りを見回す白雪姫に、王子は大喜びで言いました。
「白雪姫、あなたはわたしのそばにいるのですよ」
それから王子は、白雪姫に今までの事を話して聞かせました。
「あなたの事は、このわたしが一生お守りします。
どうかわたしの城へ来て、わたしのお嫁さんになってくださいませんか?」
白雪姫が小人たちを見ると、小人たちもうれし涙を流しながら、王子と一緒にいる方が良いと言っています。
白雪姫は、王子にこくりとうなずきました。
「はい。あなたの国へ連れて行ってください」
こうして白雪姫は王子と一緒に王子の国へ行くと、世界中の王や王女を招待して、立派な結婚式を挙げる事になったのです。
その結婚式には、白雪姫のまま母である女王も招かれる事になりました。
女王は若く美しい花嫁が、白雪姫だとは知りません。
女王は結婚式に出席するために美しいドレスに着替えると、魔法の鏡の前に行ってたずねました。
「鏡や、鏡。壁にかかっている魔法の鏡よ。
この結婚式には世界中から多くの女王が来ているが、その女王の中で一番美しいのは誰か答えておくれ」
すると魔法の鏡が、こう答えました。
「女王さまが、もっとも一番美しい女王です。
ですが、この結婚式で女王になるお方が、世界でもっとも美しい女王となるでしょう。そのお方は、あなたよりも千倍も美しい」
これを聞いた女王は頭をかきむしって、魔法の鏡を壊してしまいました。
「このわたしよりも美しい女王が誕生するなんて」
腹が立った女王は、結婚式に出席するのをやめて自分の国に帰ろうかとも思いましたが、けれども自分よりも千倍も美しい若い女王を見ないでは、とても帰る事は出来ませんでした。
「まあいい。本当にわたしより美しい女王であれば、殺してしまうまでだ」
女王は気を取りなおすと、招かれた御殿へと入りました。
そして自分より美しい若い女王が、白雪姫であることを知ったのです。
「そっ、そんな。白雪姫が・・・」
女王はその場に立ちすくんだまま、しばらく動く事が出来ませんでした。
女王が入ってきた事を知った王子は、屈強な家来たちに命じて、立ちすくんだ女王を取り囲みました。
(殺される!)
そう思った女王は、恐怖でその場に座り込んでしまいました。
そこへ王子がやって来て、女王に言いました。
「あなたが今までにやった事は、全て知っています。
新しく女王となる姫を何度も殺そうとした罪は、その命でつぐなわなければなりません。
ですが心優しい姫は、あなたをそのまま帰してほしいと言いました。
ですから、どうかこのままお帰りください。
そして、覚えておいてください。
もし姫に手を出す事があれば、姫をお守りするこのわたしが、あなたを許しておこないと」
王子の言葉に、女王は自分の国へ帰っていきました。
そして自分が世界一の美しさでなくなった女王は、国に帰ってから急に老け込むと、白雪姫を殺そうとしていた老婆の様なみにくい姿になってしまったのです。
おしまい
きょうの「366日への旅」
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