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9月15日の世界の昔話

鍛冶屋と悪魔

鍛冶屋と悪魔
ドイツの昔話 → 国情報

 むかしむかし、ある村にひどく貧乏(びんぼう)な鍛冶屋(かじや)がいました。
 あした食べるパンも手にはいらず、鍛冶屋はションボリと森へ出かけました。
 すると、草むらから悪魔(あくま)が飛び出て来ていいました。
「どうした? ずいぶんなさけない顔をしているねえ」
「なさけない顔にもなるさ。パンの一かけらもないのだから」
「そいつは気の毒だ。あんまり気の毒だから、この財布(さいふ)をやろうか。俺には重くてしかたねえんだ」
 そういって悪魔は、金貨でいっぱいの財布を見せました。
 鍛冶屋が思わず手をのばすと、悪魔はさっと財布を後ろにかくして、かわりに一枚の紙をさし出しました。
「財布がほしけりゃ、この紙に名前を書いてくれ。三年後にお前の命をくれるというサインさ」
「ああ、いいよ。どうせこのままじゃあ、うえ死にしてしまうんだし」
 鍛冶屋は紙に名前を書いて、金貨のつまった重い財布をもらいました。
「じゃ、三年後に命をもらいに行くからな」
 悪魔はそういうと、どこかへ行ってしまいました。
 鍛冶屋は悪魔からもらった金貨で、新しい道具を買いました。
 それからは不思議なことに、注文(ちゅうもん)が次々ときて、鍛冶屋は金持ちになりました。
 鍛冶屋の評判(ひょうばん)は天国までとどき、ある日、白いウマに乗った聖ペテロがやってきました。
「わたしのウマに、蹄鉄(ていてつ)をうってほしい」
 鍛冶屋ははりきって、仕事をしました。
 その仕事の見事さに、聖ペテロは喜んでこう言いました。
「お礼に、願いを三つかなえよう」
 鍛冶屋はしばらく考えてから、こう言いました。
「クギ袋からクギがぬすまれてこまっているので、誰かがクギ袋に手をつっこんだら『もう許してやる』と俺が言うまで、手がぬけないようにしてほしいね。それと、暖炉(だんろ)の前のひじかけイスに、誰かが腰かけたら『もう立ってもいいぞ』と俺が言うまで、そのまま動けないようにしてほしいな。もう一つは、庭のリンゴの木に誰かが登ったら『もう降りてもいいぞ』と俺が言うまで、降りられないようにしてくれないかね」
 すると聖ペテロは、
「かわったやつだな。天国へ行けるようにねがわないとは」
と、つぶやきながらも、鍛冶屋の願いをかなえてやりました。
 それから鍛冶屋は、ますます元気に働きました。
 そうして、三年の月日がたちました。
 悪魔は自分の三番目の弟子を、鍛冶屋のもとへ行かせました。
「親分の言いつけだ。約束どおり命をもらいに来たぞ」
 すると鍛冶屋は、いそがしそうに言いました。
「地獄へ行く前に、クギ袋からクギを一本取ってくれ」
 三番弟子の悪魔が、クギ袋に手をつっこむと、
「このクギだな。・・・おや? ありゃ、ありゃりゃ! 手がぬけねえぞ!」
 三番弟子の悪魔は、三日間がんばりましたが、どうしても手がぬけず、ヒーヒー泣きながらたのみました。
「地獄へ連れて行くのはやめるから、助けてくれ!」
 鍛冶屋はフンッ! と鼻で笑って、
「もう許してやる」
と、言いました。
 三番弟子は、泣きながら地獄へ逃げて帰って行きました。
 次に、二番弟子の悪魔が来たので、
「暖炉の前の、ひじかけイスに座って待ってろ」
と、鍛冶屋は言いました。
 二番弟子が言われるとおりに座ると、
「おいっ。イスがくっついてはなれねえぞ!」
 二番弟子の悪魔も、泣きながら三日目にたのみました。
「地獄へは連れて行かねえから、助けてくれ!」
 鍛冶屋はフンッ! と鼻で笑って、
「もう立ってもいいぞ」
と、言いました。
 二番弟子の悪魔は、おしりをさすりながら地獄へ帰りました。
 今度は一番弟子の悪魔が来たので、鍛冶屋は言いました。
「みやげのリンゴを、庭の木からとってくれ」
 一番弟子の悪魔も、木の上で三日間泣いてたのみました。
「地獄へは来なくていいから、降ろしてくれよ!」
 鍛冶屋はフンッ! と鼻で笑って、
「もう降りていいぞ」
と、言いました。
 一番弟子は、泣きながら帰って行きました。
 そして、ついに悪魔はカンカンに怒って、鍛冶屋に乗り込んで来ました。
 鍛冶屋は、すまなそうな顔で言いました。
「まあ、怒るな。あきらめて地獄へいくよ。でも、地獄へ行く前にお前の魔力を見せてくれよ。いや、あんな弟子しかいないお前の魔力じゃ、ネズミにもなれねえかな」
 悪魔は顔をまっ赤にして、パッとネズミになりました。
「しめた!」
 鍛冶屋はネズミになった悪魔をヒョイとつまむと、クギ袋にいれて、きっちりと口をむすびました。
「こらっ、鍛冶屋。ここから出せ!」
「ああ、俺の命をやるとサインした紙を渡したらな」
 鍛冶屋はそう言いながら、クギ袋を棒でたたきます。
「わかったわかった。返してやるよ!」
 悪魔がさけぶので、鍛冶屋は袋をナイフで十字型の形に切りました。
 そこから手をいれて、悪魔からサインをした紙をとりあげると、暖炉(だんろ)の火でそれを燃やしてしまいました。
 サインをした紙がなければ、悪魔にはどうすることも出来ません。
 悪魔は地獄へ帰ると、二度と姿を現しませんでした。

おしまい

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